SiCやGaNが広がる中でも、シリコンIGBTの技術開発は止まっていない。東芝が2021年に発表したトリプルゲート構造IGBTは、Si技術の継続的な進化を示す一例として、現在も比較設計の基準値として参照される。

結論

東芝デバイス&ストレージは2021年、トリプルゲート構造を採用したシリコンIGBTを発表した。従来製品比で最大40.5%の電力損失削減(ターンオン損失50%・ターンオフ損失28%低減)を実現している。SiC移行コストを負担しにくい中容量用途において、シリコン最新世代の技術水準を理解しておくことは、材料選定の判断基準になる。

何が起きたか

東芝デバイス&ストレージは2021年6月、トリプルゲート構造を採用したIGBTを発表した。

トリプルゲート構造は、従来の平面ゲートやトレンチゲートと異なり、電流経路の制御を複数のゲートで最適化する設計だ。スイッチング時の損失は制御ICのドライブ設計にも依存するが、デバイス側でのスイッチング特性の改善は、同じ制御回路でもシステム損失を下げられることを意味する。

産業機器、家電、UPS(無停電電源装置)など、600〜1200Vクラスのシリコンが広く使われている用途では、デバイス交換によるシステム損失低減の効果が直接コストに反映される。

業界背景

シリコンIGBTは依然として産業用インバータの主力デバイスだ。価格・実績・エコシステムの観点で、SiCに切り替えるよりシリコンの最新世代を使い続けることが合理的な用途は多い。

富士電機のXシリーズIGBTは電力損失を10%削減・チップ温度を11℃低減しており、各社の技術開発が継続していることが確認できる。シリコンの新世代品は、SiCへの移行を判断する前のコスト効率改善として使われることも多い。

シリコンIGBTが選ばれ続ける理由
01

価格

SiCデバイスはシリコン比で依然高価。コスト感度が高い家電・産業下位機種では材料切り替えの経済合理性が成立しにくい。

02

実績と認定

数十年の量産実績があり、品質認定・信頼性データが蓄積されている。新材料への切り替えには再認定コストが発生する。

03

設計資産の継続性

既存のゲートドライバや保護回路をそのまま使えるため、基板設計の変更範囲を最小にできる。

見ておきたいこと

東芝は300mmウェハ対応の新棟投資も進めており(fc-toshiba-300mm-power-device-new-line)、シリコンパワー半導体の製造コスト低減と大口径化を並行して進めている。新構造IGBTの技術と大口径製造の組み合わせは、シリコンIGBTのコスト競争力を今後さらに引き上げる可能性がある。

SiCへの切り替え検討をしているシステムメーカーにとっても、シリコン最新世代との損失・コスト比較は選定判断の基準点になる。東芝の新IGBTが出てきたタイミングで、比較軸を更新しておくことが有効だ。