SiCパワー半導体市場のパイオニアであるWolfspeedは、2025年6月に米連邦破産法第11条の適用を申請した。主要債権者との間で約46億ドルの債務削減を含む再建支援契約を締結し、同年10月に財務再構築を成功裏に終えて事業継続を発表したが、この一連の経緯はSiC調達における「単一サプライヤー依存」のリスクを改めて浮き彫りにした。ルネサスエレクトロニクスはWolfspeedとのSiCウェハー供給契約に基づき20億ドルの預託金を提供しており、破産申請により約2,500億円の損失を計上した。

SiCパワー半導体市場の主要プレイヤー

SiCパワー半導体の売上規模トップ4は、インフィニオン・STマイクロエレクトロニクス・ローム・Wolfspeedであり、各社は前年度比29〜42%増という高い伸び率で需要拡大に対応してきた。代替調達先となりうる企業にはさらに、onsemi・富士電機・三菱電機・中国系メーカーが含まれる。Wolfspeed以外の主要サプライヤーの特性を比較する。

インフィニオン CoolSiC

Infineon CoolSiC MOSFETは、Siベース IGBTと比較してスイッチング損失を約80%、導通損失を最大50%削減できる。最新世代のG2は前世代比で損失をさらに5〜20%削減し、熱抵抗を12%低減して放熱能力を14%改善した。競合他社との比較では、1200V品で4〜17%、650V品で13〜64%の電力損失削減を達成しており、特に低耐圧帯での優位性が顕著だ。欧州(ドレスデン)に主力拠点を持ち、車載・産業両市場での採用実績が豊富で、現時点で調達安定性が最も高いサプライヤーの一角といえる。

onsemi EliteSiC

onsemi EliteSiCは低電力損失による高効率と高信頼性を特徴とする。EliteSiC M3e MOSFETは導通損失を30%低減し、スイッチング損失を最大50%削減できる。onsemiは650Vから1700VまでのSiC MOSFET・ダイオード・モジュールを含む完全なポートフォリオを展開しており、特定耐圧・アプリケーションへの依存なく採用しやすい体制を整えている。EVトラクションインバーターでの採用事例が蓄積されており、T2PAKトップクールパッケージによる優れた熱性能が設計の自由度を高める。

ローム — 短絡耐量で差別化

ローム第4世代SiC MOSFETは、独自のデバイス構造により低オン抵抗と高短絡耐量の両立を実現している。SiCは短絡耐量がSiより低いという固有の課題を持つが、第4世代のローム独自技術はこのトレードオフを改善しており、保護回路設計の余裕度が増す。国内での技術サポート体制が充実しており、設計・評価段階のサポートを受けやすい点も日本の製造業にとっての実際の優位点となる。

三菱電機・富士電機 — 国内サプライヤーの位置付け

三菱電機はトレンチ型SiC-MOSFETにp型保護層を導入し、短絡耐量を大幅に向上させた技術を開発している。地政学リスクを最小化できる国内製造と、既存取引関係を活かした情報共有のしやすさが強みだ。富士電機も車載・産業機器向けSiCデバイスの拡充を進めており、日本国内の設計・量産フローとの親和性が高い。

中国系メーカーの評価ポイント

中国系SiCメーカーは2024年から8インチウェハーの量産を開始しており、価格競争力で優位性を示している。ウェハー品質は近年急速に向上し、国際学会でも注目されるほどだ。一方、車載・産業高付加価値用途では欧米日メーカーの品質認証(AEC-Q101等)の優位性がいまだ残っている。採用を検討する際は、価格競争力だけでなく、地政学リスク・長期的品質認証の取得見通し・供給継続性を総合的に評価することが必要だ。

サプライヤー選定の評価軸

評価軸重要度確認ポイント
オン抵抗(RDS(on))低減率同条件での競合比較データを要求する
短絡耐量(SCWT)使用電圧・温度条件での確認が必須
車載認定(AEC-Q101)車載必須全型番ではなく特定型番で確認する
8インチ移行ロードマップ中長期2025〜2028年の供給体制を確認する
製造拠点の地理的分散単一拠点集中リスクを確認する
技術サポート体制日本語対応・評価キット提供の有無

まとめ

信頼性と供給安定性を重視するなら、インフィニオン CoolSiC G2またはonsemi EliteSiC M3eが現時点での筆頭候補となる。短絡耐量を重視する保護回路設計にはロームが選択肢に入る。国内製造・サポートを重視するなら三菱電機・富士電機との関係深化を検討する。マルチサプライヤー体制の構築と、8インチ移行後のコスト削減を見据えた長期ロードマップ策定が、今後の設計・調達の競争条件を決める。