データセンター給電の電圧 — 48Vから400/800Vへ

データセンターの給電方式は、ラック電力の上昇とともに電圧の引き上げが議論されている。電流=電力÷電圧であるため、同じ電力を低い電圧で送るほど電流が増え、導体の断面積・銅損・発熱が膨らむ。AIラックが100kWを超え1MWへ向かう中で、48V/±400V/800Vという選択肢をどう使い分けるかが論点になっている。

48V直流 — 従来のラック内標準

ラック内48V直流は、これまでの標準的な給電方式だ。電源ユニット(PSU)が48Vバスを生成し、サーバーボード上のDC-DCコンバータが各デバイスへ1V前後を供給する。実績と部材の枯れた構成という強みがある一方、ラック電力が大きくなると48Vのままでは電流が膨大になり、導体・銅損・スペースの制約が顕在化する。これが高電圧化を促す出発点だ。

±400V / 800V直流 — HVDC化

ラックへ入る給電を高電圧直流(HVDC)へ引き上げる方向が、ハイパースケーラー主導で進んでいる。OCP(Open Compute Project)が示す分離型(サイドカー)電源ラックの構想では、ラック内48V直流から±400Vまたは800V直流へ給電を引き上げ、100kW〜1MWのITラックを可能にするとされる。±400Vは800Vより絶縁・保護のハードルが相対的に低く、800Vは電流をさらに下げて1MW級に対応しやすい、という位置づけだ。

NVIDIAの技術ブログは、800V DCアーキテクチャによりエンドツーエンド効率を最大5%改善し、保守コストを最大70%削減できるとしており(NVIDIA Technical Blog)、2027年以降の1MWラック世代に向けて800Vへの移行を主導するとしている。

電流低減の効果は単純だが大きい。100kWを48Vで送ると理論電流は約2,083Aになる一方、400Vでは250A、800Vでは125Aまで下がる。電流が下がれば導体断面積、バスバー、接続部の発熱、電圧降下の設計余裕を取りやすくなる。ただし高電圧化は、絶縁距離、アーク対策、直流遮断器、保守手順、認証済み部材の調達を難しくする。つまり800Vは「効率が高いからすぐ置き換える」技術ではなく、ラック電力密度と施設側の設計更新をセットで見るアーキテクチャ変更である。

100kW
48V
約2,083A
400V
250A
800V
125A
200kW
48V
約4,167A
400V
500A
800V
250A
1MW
48V
約20,833A
400V
2,500A
800V
1,250A

※電流=電力÷導体間電圧の理論値(変換損失・力率は無視)。±400Vは極間では800Vだが、対地電圧を400Vに抑えて絶縁・保護の要求を下げる考え方である。

NVIDIAは、ラック電力が200kWを超えると54V直流のまま電流を増やす設計は銅バスバーの重量・体積・発熱で物理的な限界に達するとしている。表の200kWの行がその境目で、1MWでは48V系の電流が2万Aを超え、ラック内の配電として現実的でなくなる。

48V / ±400V / 800V の比較
01

48V直流(ラック内標準)

実績・部材が枯れている。低電圧で大電流になりやすく、ラック電力が大きいと導体・銅損・スペースが制約に。

02

±400V直流

48Vより電流を下げられ、800Vより絶縁・保護のハードルが相対的に低い。中間的な移行先。

03

800V直流

電流をさらに下げ1MW級に対応しやすい。効率・保守で有利(NVIDIA)。絶縁・直流遮断の設計難度は上がる。

04

選定の軸

ラック電力帯・絶縁/保護の許容度・対応部材のリードタイム・標準化(OCP)動向で使い分ける。

800V DCラックの採用状況(2026年10月時点)

1MW級ラックで800Vを選ぶ場合、問題は「方式として正しいか」より「必要な機器が揃うか」に移っている。2026年10月時点で、施設側・ラック側・基板側のそれぞれで製品と導入先が出てきた。

ラック世代
2026年10月時点の動き
Rubin Ultra搭載のNVIDIA Kyberラックは2027年出荷開始予定(Schneider Electric)。800Vへの移行はこの1MWラック世代を前提にしている
施設側の電源
2026年10月時点の動き
Vertivは800V DC電源ポートフォリオを2026年後半に投入予定。Schneider Electricの800V DCサイドカーはGoogle・Metaなどのハイパースケーラーも対象にし、活線交換に対応する
ラック横の電源
2026年10月時点の動き
Deltaは2026年9月、出力660kW・AC-DC効率最大98%の800V DCインロー電源を展示。LITEONの800V DCサイドカー・PSUにはWolfspeedのSiCが認定済み(2026年8月)
基板側の変換
2026年10月時点の動き
Infineonは2026年10月、800Vから50V・12V・6Vへ下げる中間バスコンバータ(IBC)にGaNを使う協業をNVIDIAと進めると発表
導入先
2026年10月時点の動き
Foxconnは台湾・高雄で40MWの800V DC対応データセンター「Kaohsiung-1」を建設中。CoreWeave、Lambda、Nebius、Oracle Cloud Infrastructure、Together AIも800V DCのデータセンター設計を進めている
政策
2026年10月時点の動き
中国は2026年9月の計算基盤の実施方案で、800V高圧直流給電の探索と1ラック100kW超の高密度展開を明記した

48V・±400Vとの比較で言えば、800Vの弱点だった「対応部材がない」は2026年後半から2027年にかけて埋まりつつある。残る論点は、直流遮断・絶縁・保守手順を施設側でどう設計し、どのベンダーの組み合わせで調達するかだ。ベンダー別の導入計画は800VDC導入計画、Vertiv・Foxconnが先行、インロー電源の詳細はDelta:800VDCインロー電源660kWで扱っている。

どう選ぶか — 移行の現在地

どの電圧を選ぶかは、ラックの電力帯と、絶縁・直流保護の設計許容度、そして800V対応部材の調達リードタイムで変わる。現状は「48Vが実績の標準、±400/800Vへ移行が始まりつつある」段階で、施設・電源・デバイスの各層が同じ方向に設計を更新している。200kWを超えるラックを計画するなら48Vの延長では足りず、2027年以降の1MW級を新設するなら800Vを前提に機器の調達時期から逆算する、というのが2026年10月時点の現実的な線引きだ。

選定シナリオ別の見方
01

既存設備の延命

ラック電力がまだ中程度で、既存PSU・BBU・保守手順を活かすなら48Vを維持し、ボード上DC-DCと冷却改善で吸収する。

02

段階的な高密度化

100kW超のラックを増やしつつ、800V対応部材の成熟を待つ場合は±400Vやサイドカー電源ラックが現実的な移行先になる。

03

1MW級新設

NVIDIAが示す2027年以降の1MWラック世代では800Vを前提に、MVAC-LVDC変換、固体遮断器、保守安全設計を同時に調達する。

04

調達リスク

変換器、直流遮断器、コネクタ、絶縁材料、検証済みリファレンス設計の供給可否が、電圧方式そのものと同じくらい重要になる。

実務上は、48V、±400V、800Vを単一の勝ち負けで見るより、施設の更新タイミングで使い分ける方が現実的だ。既存棟では48Vを残し、新設の高密度ゾーンで±400Vまたは800Vを採用し、サーバー世代更新に合わせて給電電圧を上げる。アーキテクチャ全体像や移行スケジュールの詳細は関連記事で扱う。

800V直流給電そのものの移行背景・製品スケジュール・新たな設計課題はAIデータセンターの800V直流給電への移行で詳述しています。

参照ファクトカード