国際エネルギー機関(IEA)は2026年9月、報告書「Modernising Grids in the Age of Electricity(電力の時代における送電網の近代化)」を公表した。既存の送電網をより効率的に使えば、最大330GWの発電・蓄電・需要を、系統を増強せずに接続できるという試算を示している。

データセンターの系統接続では、変圧器の不足と接続待ちが最大の制約になってきた。今回の報告書は、新しい送電線の完成を待つ以外に、既存設備から容量を引き出す手段がどれだけあるかを数字で示した点に意味がある。

増強なしで330GW、増強なら約1,000億ドル

試算の対象は、送電網で最も広く導入されている3つの技術だ。

IEAが試算に含めた3技術
01

ダイナミック・レーティング

実際の気象条件に応じて、送電線や変圧器に安全に流せる電力量を調整する。

02

トポロジー最適化

網の構成を切り替え、混雑した線路を迂回して電力を流す。

03

高度潮流制御

電力を使われていない経路へ振り向ける。

IEAによると、これらの多くは数年ではなく数カ月で導入でき、既に運用中の網にも後付けできる。ただし解放できる容量は物理的な網の構成や気象・系統条件によって上限があり、需要増に必要な段階的な能力拡大をもたらすものではない。IEAはこれらを系統増強の代わりではなく補完と位置付けている。

実系統での効果も出始めている。米国ではダイナミック・レーティングにより年6,400万ドルの混雑コストが回避され、英国(グレートブリテン)では高度潮流制御で2GWを超える送電容量が追加された。系統の詳細な仮想モデル(デジタルツイン)で、増強案の分析時間を70%短縮した例もある。

接続待ちは再エネ1,700GW・蓄電池600GW

背景には、系統整備が需要の伸びに追いついていない現実がある。IEAによると、2025年時点で少なくとも1,700GWの先行段階の再生可能エネルギー案件と、600GWの系統用蓄電池が接続待ちだった。2024年の系統混雑コストは米国で120億ドル、EUで43億ユーロに達した。

過去10年、電力需要はエネルギー需要全体の約2倍の速さで伸びてきた。要因は最終用途の電化、冷房、産業拡大、そして一部の市場ではデータセンターだ。2035年までの需要増に対応するには、系統容量を少なくとも30%、線路にして2,500万km分の新設・更新が必要になるという。

IEAは報告書の中で、データセンターを系統利用者の中で空間的集中度が最も高い部類と位置付けている。都市や光ファイバー網、顧客の近くに集まるためだ。系統が追いつかない地域では、住宅や産業の開発がデータセンターや発電案件と乏しい系統容量を奪い合っていると指摘する。米国の送電ニーズ調査が示した構図と重なる。

普及を止めているのは技術ではなく制度

Loading chart

IEAが調査した系統運用者は、主要な障壁として、スキルと組織の準備状況(64%)、データの入手性と品質(60%)、信頼に関わる課題(60%)、規制の枠組み(56%)を挙げた。IEAは、普及の主な障害は技術性能ではなく制度・組織面にあるとしている。

規制面では、系統運用者にとって新しい設備への投資のほうが、同じ課題を解決するデジタル・運用上の代替策よりも費用を回収しやすい構造が残っているという。IEAは、設備投資を優遇しない資金ルールや、容量の解放や混雑回避といった成果に連動するインセンティブを提言した。

AIについても温度差がある。系統運用者の70%が保守業務でAIを広く使っている一方、リアルタイム運用での利用は23%にとどまる。安全上重要な判断では、説明可能性・監査可能性・説明責任の要件が重いためだ。

データセンター事業者にとっての意味

  • 接続協議での問い方:系統会社に「新しい変電所がいつできるか」だけでなく、既存設備の運用改善でどれだけの容量を先に出せるかを確認する余地がある
  • 暫定接続との組み合わせ:数カ月で導入できる技術は、増強完了までのつなぎとして、PJMなどが整備を進める大口負荷の接続ルールと組み合わせて検討する対象になる
  • 限界の理解:解放できる容量は気象や系統条件で変動する。常時一定の受電を前提とする設計には、そのまま当てはめられない

参照ファクトカード