目次
01 増強なしで330GW、増強なら約1,000億ドル 02 接続待ちは再エネ1,700GW・蓄電池600GW 03 普及を止めているのは技術ではなく制度 04 データセンター事業者にとっての意味 05 参照ファクトカード 国際エネルギー機関(IEA)は2026年9月、報告書「Modernising Grids in the Age of Electricity(電力の時代における送電網の近代化)」を公表した。既存の送電網をより効率的に使えば、最大330GWの発電・蓄電・需要を、系統を増強せずに接続できるという試算を示している。
データセンターの系統接続では、変圧器の不足と接続待ち が最大の制約になってきた。今回の報告書は、新しい送電線の完成を待つ以外に、既存設備から容量を引き出す手段がどれだけあるかを数字で示した点に意味がある。
増強なしで330GW、増強なら約1,000億ドル Key Point
IEAは、ダイナミック・レーティング、トポロジー最適化、高度潮流制御の3技術で、最大330GWの発電・蓄電・需要を既存の送電網へ増強なしで接続できると試算した。フランスと韓国の発電設備容量の合計にほぼ相当し、系統増強で同じ量を接続すると約1,000億ドルの投資が必要になる。
試算の対象は、送電網で最も広く導入されている3つの技術だ。
IEAが試算に含めた3技術 01
ダイナミック・レーティング 実際の気象条件に応じて、送電線や変圧器に安全に流せる電力量を調整する。
02
トポロジー最適化 網の構成を切り替え、混雑した線路を迂回して電力を流す。
03
高度潮流制御 電力を使われていない経路へ振り向ける。
IEAによると、これらの多くは数年ではなく数カ月で導入でき、既に運用中の網にも後付けできる。ただし解放できる容量は物理的な網の構成や気象・系統条件によって上限があり、需要増に必要な段階的な能力拡大をもたらすものではない。IEAはこれらを系統増強の代わりではなく補完と位置付けている。
実系統での効果も出始めている。米国ではダイナミック・レーティングにより年6,400万ドルの混雑コストが回避され、英国(グレートブリテン)では高度潮流制御で2GWを超える送電容量が追加された。系統の詳細な仮想モデル(デジタルツイン)で、増強案の分析時間を70%短縮した例もある。
接続待ちは再エネ1,700GW・蓄電池600GW 背景には、系統整備が需要の伸びに追いついていない現実がある。IEAによると、2025年時点で少なくとも1,700GWの先行段階の再生可能エネルギー案件と、600GWの系統用蓄電池が接続待ちだった。2024年の系統混雑コストは米国で120億ドル、EUで43億ユーロに達した。
過去10年、電力需要はエネルギー需要全体の約2倍の速さで伸びてきた。要因は最終用途の電化、冷房、産業拡大、そして一部の市場ではデータセンターだ。2035年までの需要増に対応するには、系統容量を少なくとも30%、線路にして2,500万km分の新設・更新が必要になるという。
IEAは報告書の中で、データセンターを系統利用者の中で空間的集中度が最も高い部類と位置付けている。都市や光ファイバー網、顧客の近くに集まるためだ。系統が追いつかない地域では、住宅や産業の開発がデータセンターや発電案件と乏しい系統容量を奪い合っていると指摘する。米国の送電ニーズ調査 が示した構図と重なる。
普及を止めているのは技術ではなく制度 Loading chart
IEAが調査した系統運用者は、主要な障壁として、スキルと組織の準備状況(64%)、データの入手性と品質(60%)、信頼に関わる課題(60%)、規制の枠組み(56%)を挙げた。IEAは、普及の主な障害は技術性能ではなく制度・組織面にあるとしている。
規制面では、系統運用者にとって新しい設備への投資のほうが、同じ課題を解決するデジタル・運用上の代替策よりも費用を回収しやすい構造が残っているという。IEAは、設備投資を優遇しない資金ルールや、容量の解放や混雑回避といった成果に連動するインセンティブを提言した。
AIについても温度差がある。系統運用者の70%が保守業務でAIを広く使っている一方、リアルタイム運用での利用は23%にとどまる。安全上重要な判断では、説明可能性・監査可能性・説明責任の要件が重いためだ。
データセンター事業者にとっての意味 接続協議での問い方:系統会社に「新しい変電所がいつできるか」だけでなく、既存設備の運用改善でどれだけの容量を先に出せるかを確認する余地がある 暫定接続との組み合わせ:数カ月で導入できる技術は、増強完了までのつなぎとして、PJMなどが整備を進める大口負荷の接続ルール と組み合わせて検討する対象になる 限界の理解:解放できる容量は気象や系統条件で変動する。常時一定の受電を前提とする設計には、そのまま当てはめられない 参照ファクトカード
IEA、既存送電網の有効活用で最大330GWの電源・蓄電・需要を増強なしで接続できると試算
IEAは2026年9月の報告書「Modernising Grids in the Age of Electricity」で、ダイナミック・レーティング、トポロジー最適化、高度潮流制御の3技術により、最大330GWの発電・蓄電・需要を既存の送電網へ増強なしで接続できると試算した。これはフランスと韓国の発電設備容量の合計にほぼ相当し、同じ量を系統増強で接続すると約1,000億ドルの投資が必要になるとしている。
IEAは3技術の多くが数年ではなく数カ月で導入でき、系統増強を置き換えるのではなく補完するとした
IEAによると、ダイナミック・レーティング(気象条件に応じて送電線・変圧器の許容電流を調整)、トポロジー最適化(混雑線路を迂回するよう網構成を切り替え)、高度潮流制御(未利用経路へ電力を振り向け)の多くは数年ではなく数カ月で導入できる。一方で解放できる容量は物理的な網と気象・系統条件で上限があり、需要増に必要な段階的な能力拡大はもたらせないとして、系統増強の補完と位置付けている。
2025年時点で先行段階の再エネ1,700GW超と系統用蓄電池600GWが接続待ちだった
IEAは、系統整備が電力需要の伸びに追いついていない帰結として、2025年時点で少なくとも1,700GWの先行段階の再生可能エネルギー案件と600GWの系統用蓄電池が接続待ちだったと指摘した。2024年の系統混雑コストは米国で120億ドル、EUで43億ユーロに達したとしている。許認可手続き、サプライチェーンの制約、人手不足、機器コストの上昇が整備を制約している。
2035年までの需要増に対応するには送電網容量を少なくとも30%、線路2,500万km分の増設・更新が必要
IEAは、過去10年の電力需要がエネルギー需要全体の約2倍の速さで伸び、その要因として最終用途の電化、冷房、産業拡大、一部市場ではデータセンターを挙げた。2035年までの需要増に対応するには系統容量を少なくとも30%増やす必要があり、これは2,500万kmの線路の新設または更新に相当する。増加分の4分の3は新興・途上国で見込まれる。
IEAはデータセンターを、都市・光ファイバー網の近くに集中する空間的集中度が最も高い系統利用者の一つと位置付けた
IEAは、大規模なインバーター電源と巨大データセンターを、より集中した新しい形態の発電・需要と位置付けた。データセンターは都市、光ファイバー網、顧客の近くに集まるため、系統利用者の中でも空間的集中度が最も高い部類に入るとしている。系統が追いつかない地域では、住宅・産業開発がデータセンターや発電案件と乏しい系統容量を奪い合う状況が生じていると指摘した。
実系統での効果:米国のダイナミック・レーティングで年6,400万ドルの混雑コスト回避、英国の潮流制御で2GW超
IEAが報告する実績として、米国ではダイナミック・レーティングにより年6,400万ドルの混雑コストが回避され、英国(グレートブリテン)では高度潮流制御により2GWを超える送電容量が追加された。デジタルツイン(系統の詳細な仮想モデル)により、増強案の分析に要する時間を70%短縮した例もある。
系統運用者の障壁はスキル64%・データ60%・信頼60%・規制56%で、技術性能より組織・制度が主因
IEAが調査した系統運用者のうち、64%がスキルと組織の準備状況、60%がデータの入手性と品質、60%が信頼に関わる課題、56%が規制の枠組みを主要な障壁に挙げた。IEAは、普及の主な障害は技術性能ではなく制度・組織面にあるとし、規制は新設備への設備投資をデジタル・運用上の代替策より優遇しない形にすべきだと提言した。