Scope 2は「他社から購入した電気・熱・蒸気・冷熱」に伴う間接排出量である。GHG Protocol Scope 2 Guidance(2015)は、電力由来排出を立地基準(location-based)とマーケット基準(market-based)の2つで算定し、両方を開示するデュアルレポーティングを求める。日本の環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォームも、ロケーション基準を系統網平均の排出係数、マーケット基準を実際に契約している電気メニューに応じた排出係数として説明している。
立地基準は、工場や事業所が接続する国・地域・電力系統の平均排出係数を使う。調達契約の有無に左右されず、地域グリッドの実態を比較しやすい。マーケット基準は、電力メニュー、再エネ証書、PPAなど、企業が保有する契約上の属性に基づく。再エネ調達の効果をScope 2に反映できる一方、証書の品質、償却、対象期間、地域境界を誤ると過大な削減主張になる。
Scope 2二基準の使い分け01
立地基準
地域・国の平均グリッド係数を使用する。海外拠点間の電力ミックス差を見せる用途に向く。
02
マーケット基準
契約した電力メニュー、証書、PPAの属性を使用する。再エネ調達の実績を示せるが、品質要件の確認が必須。
03
デュアル開示
両方を並べることで、地域グリッドの脱炭素度と自社調達努力を切り分けられる。
再エネ証書は地域ごとに制度が異なる。欧州のGO、北米のREC、国際的なI-REC(E)、日本の非化石証書やJクレジットが代表例だ。I-TRACK Foundationは、I-RECを含む属性追跡標準について、二重発行・二重請求を避ける監査可能な仕組みとして説明する。RE100 Technical Criteria 2023では、再エネ電力の主張には発電属性の独占的所有、属性情報の分離、償却記録、地理的市場境界、ビンテージの整合が必要になる。単に「再エネ由来」と書かれた証書を買うだけでは、RE100やCDPの確認に耐えない。
PPA(電力購入契約)をマーケット基準に算入するには、電力量と環境価値が同じ需要家に帰属し、対応する証書が第三者に売却されていないことを確認する。オンサイトPPAでは自家消費量と余剰売電分を分ける。オフサイトPPAでは、同一市場内での発電・消費、証書の償却、契約期間、発電所の新設性を台帳化する。発電電力量が需要を下回った月は、残余電力に残余ミックスまたは適切な電力メニュー係数を適用する必要がある。
Loading chart
数値が大きく変わる理由は、排出係数の参照先が違うためだ。石炭比率の高い系統では立地基準が大きくなり、再エネPPAや非化石証書を持つ企業ではマーケット基準が小さくなる。逆に、低炭素グリッドに立地していても、契約メニューの係数が高ければマーケット基準が立地基準を上回る場合がある。したがってScope 2削減を経営目標に使う場合は、どちらの基準でKPIを置くかを取締役会資料に明記する。
実務課題はMarket-based係数の入手だ。グリッド平均の基礎排出係数をそのままマーケット基準に使うと、GHG Protocolの厳密な定義とずれる場合がある。正確には、小売事業者から電力メニュー固有の係数を取得するか、保有する証書・PPAの実際の排出属性を使う必要がある。CDPや投資家対応では、Scope 2の係数根拠・証書ID・償却日・対象電力量を年次で説明できる状態が求められる。
実務のチェックリストは、1) 拠点別電力量を月次で固定、2) 立地基準の国・地域係数を選定、3) 契約メニュー係数を小売から取得、4) GO・I-REC・REC・非化石証書・Jクレジットの償却記録を保存、5) PPAの環境価値帰属条項を確認、6) CDP/RE100ガイドラインで同じ算定表を使う、の6点である。Scope 2は計算より証憑管理が難しい。監査対応を見据え、証書台帳と電力量台帳を同じ粒度で管理することが最短距離になる。
参照ファクトカード