Infineonは2026年10月26日、900VのGaN(窒化ガリウム)モノリシック双方向スイッチ(BDS)をEnphase Energyに供給すると発表した。Enphaseが開発しているAIデータセンター向けの固体変圧器(SST)「IQ SST」の電源モジュールに搭載する。両社は900VのGaN BDSを世界初としている。
住宅用太陽光の会社がデータセンター電源へ
Enphaseは住宅用太陽光のマイクロインバーターで知られる。同社の製品ページによると、IQ SSTは系統からAI計算ラックへ800VDCを直接供給する装置で、1システムあたり5MW、システム効率98.5%超、応答はミリ秒未満、99.999%の稼働率を前提に設計している。モジュール式で、蓄電池を負荷の近くにもホワイトスペースの外にも組み込める。
従来の構成では、中電圧の交流を変圧器で下げ、UPSや整流器を経てラックに届ける。SSTは半導体による高周波の電力変換でこれを置き換え、変圧と直流化をまとめて行う。AIデータセンターでのSSTの受注動向はSiC固体変圧器の受注動向で取り上げた。
双方向スイッチを1素子に
耐圧
900V。GaNの動作電圧を広げつつ、高周波スイッチングの特性を保つ。
構造
モノリシックBDS。双方向の電圧阻止と電流導通を1素子に統合。
効果
部品点数の少ない電力段、磁性部品の小型化、変換段の削減。
対象電圧
800VDC配電、将来の1500VDC配電への移行を支える。
通常の電力用スイッチは一方向にしか電圧を阻止できないため、双方向の動作には素子を2つ組み合わせる。モノリシックBDSはこれを1素子で行う。Infineonによると、阻止電圧が高いため、より少ない変換段で高いシステム電圧を扱える。
EnphaseのCTO、ハンス・ファン・アントワープ上級副社長は、GaNは同社のIQ9マイクロインバーターで既に現場で動いており、その経験がメガワット級への展開の自信になったと述べた。900Vに上げることで電圧の余裕が増え、変換段を取り除いて電力経路の部品を減らせるとしている。
SiCとの関係
Infineonは、高電圧の電力変換ではSiC(炭化ケイ素)が広く使われているとしたうえで、900V GaN BDSはSSTの選択肢を広げると説明した。同じデバイスは、米国の480V、その他地域の400Vの三相の商用太陽光インバーターにも使える見込みで、スイッチ数を減らし損失とシステムコストを下げられるとしている。
設計・調達担当にとっての意味
- SSTの半導体はSiCだけではなくなる:これまでのSST製品はDG MatrixのようにSiCを使う例が中心だった。900V GaNが加わり、SSTの調達ではSiCとGaNの両方を比較する場面が出てくる
- 量産時期は未定:900V GaN BDSは量産認定の前の段階で、IQ SSTの出荷時期も今回の発表では示されていない。設計に織り込むのは量産認定の結果を見てからになる
- 太陽光インバーターと部品を共有できる:同じデバイスが商用太陽光インバーターにも使えれば、データセンター向けだけでは出ない量産規模が見込める。部品の供給の安定とコストに効く
- 800VDC移行の選択肢が増える:800VDCへの移行は、電源メーカー各社の製品化が進んでいる。系統から800VDCまでを1台で変換するSSTは、電気室の機器構成を大きく変える選択肢になる
