2026年5月、韓国のコングロマリット・ドゥサン(Doosan)がSK Siltronの株式100%を取得すると発表した。買収総額は約5兆ウォン(約3,300億円)とされ、半導体ウェハ業界に大きな波紋を広げている。

SK Siltronは、ウェハ市場でシェア3位に位置するグローバルメーカーだ。シリコンウェハを主力としながら、SiC(炭化ケイ素)ウェハにも本格参入しており、EVや産業機器向けパワー半導体の主要材料サプライヤーとして注目されてきた。

SiC事業の「実態」が明らかに

今回の買収交渉で浮かび上がったのは、SiC事業の深刻な収益悪化だ。

SK Siltron SiC事業の財務状況(直近決算)
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SiC減損損失

4,140億ウォン。うちのれん3,340億ウォンは評価額がゼロに切り下げられた。

02

SiC事業営業損失

2,145億ウォンの損失。シリコンウェハ事業の営業利益4,076億ウォンとの対比で、事業間の収益格差が鮮明。

03

有利子負債とコベナンツ

借入総額2.7兆ウォンのうち約1.2兆ウォンには、株主変更時に即時返済を求めるコベナンツが設定されており、買収後の財務負担が大きい。

04

価格交渉の焦点

ソウル経済日報によれば、ドゥサンはSiC事業の損失規模と偶発債務を根拠に、当初提示された買収価格からの引き下げを求めているという。

シリコンウェハ事業が黒字を稼ぐ一方、SiC事業が同規模の損失を出している構図は、SK Siltronに限ったことではない。EV向けSiCデバイス需要の踊り場が2023年後半から始まり、ウェハサプライヤーにまでその影響が及んでいる実態を示している。

ドゥサンが描く垂直統合の絵図

ドゥサンがSK Siltronを欲しがる理由は、単なる資産取得ではない。同社はすでにウェハの後工程にあたる検査・封止、プリント基板(CCL)、産業用ロボットを手がけており、SK Siltronの取得によってウェハ製造から最終部品までの一貫した垂直統合サプライチェーンを構築できる。チップ事業を核に置き、そこへ素材・装置・後工程を引き寄せていく戦略だ。

日韓サプライチェーン協力の文脈

この動きは、5月19日に発表された日韓のサプライチェーン強靭化に関する共同声明とも重なる。半導体素材・部品での日韓連携が政府間で改めて確認される中、ウェハという極めて重要な素材分野での韓国国内再編が進行している。

日本のメーカーとも競合関係が生じうるSiCウェハ分野で、ドゥサン傘下のSK Siltronがコスト競争力をどう立て直すかは、今後の業界地図に直接影響する。

経営・調達・設計への示唆

SiC事業の収益化は、多くの参入企業が期待より長い時間軸を要することを今回の数字は示している。EV需要の成長速度、中国勢の価格攻勢、製造歩留まりの壁——これらが重なり、大手ウェハメーカーでも多額の減損を迫られるのが現実だ。

一方、ドゥサンによるSK Siltron買収は、ウェハの安定調達先が今後再編される可能性を示唆している。SiCデバイスを採用・検討する経営企画・調達・設計の担当者にとって、ウェハサプライヤーの財務健全性と所有構造の変化は、調達リスクの評価項目として見ておく価値がある。