CDP(Carbon Disclosure Project)への回答実績は、企業がScope 1・2排出量データを整備し、外部開示できる水準にあるかを判断するための実践的な代理指標だ。日本ではCDP Japanが毎年回答企業を公表しており、プライム市場上場企業を中心に回答数が増加している。回答の有無とスコアレンジは、調達先の開示体制の成熟度を迅速にスクリーニングする際に有効な情報源になる。

CDPとは何か——評価体系の基本構造

CDP(Carbon Disclosure Project)は2000年に設立されたNPOで、企業・自治体の気候変動・水資源・森林の3テーマに関する情報開示を促進する国際機関だ。毎年世界の主要機関投資家・大企業(CDP Supply Chain参加企業)がCDPを通じてサプライヤーに質問書を送付し、回答を求める。

CDP気候変動質問書は毎年改訂される詳細な質問書で、以下の主要セクションで構成される:

  • ガバナンス(取締役会の気候変動に関する責任体制)
  • リスクと機会(移行・物理リスクの特定と財務影響)
  • ビジネス戦略(シナリオ分析・低炭素移行計画)
  • 排出量データ(Scope 1・2・3の数値と算定方法)
  • 排出量削減目標(SBTi等との連携)
  • エネルギー消費(再エネ利用状況)

CDPはこれらへの回答を「AからD-」(未回答は「F」)のスコアで評価し、公開している。特にAリストは気候変動対応のリーダー企業として毎年公表される。

日本企業のCDP回答動向

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日本は回答企業数でグローバルトップクラスを維持している。ただし回答社数の増加ペースは鈍化しており、プライム市場上場企業の中でも小型株・中型株の中堅製造業はまだ回答していないケースが多い。CDP回答が未実施でも有価証券報告書のサステナビリティ情報欄に排出量開示をしている企業はあるが、データ粒度・算定方法の透明性はCDP回答企業の方が高い傾向がある。

日本のCDP Aリスト企業数は2024年で70社超と世界最多クラスを維持しており、パナソニック・トヨタ・富士通・旭化成等の大手製造業が名を連ねる。一方で時価総額500億円以下の中堅製造業ではAリスト企業がほぼ存在せず、中堅層のESG開示水準と大企業の差が際立っている。

CDP回答企業と非回答企業の差

CDP回答状況別の開示体制評価
01

Aリスト・高スコア回答企業(A〜B)

Scope 1・2・3の算定体制が整備されており、第三者検証済みのデータを開示している。SBTi認定・再エネ調達目標とも連動していることが多く、ESG開示の先進的な実践企業として位置付けられる。調達評価では最も信頼性の高いESGデータ提供者として扱えるが、取引規模が小さい場合は大手向けのエンゲージメントプログラムへの参加が難しいこともある。

02

中間スコア回答企業(C〜D)

Scope 1・2は把握できているがScope 3が未整備、または算定精度にばらつきがある状態が多い。回答実績があることで基礎的なデータ収集体制は確認できる。改善の余地がある部分を調達側から確認するとよい。スコア改善のトレンドが右肩上がりか横ばいかは、ESG体制の成熟度を判断する追加の情報になる。

03

非回答企業

CDP非回答が必ずしも低ESGを意味するわけではないが、データ収集インフラが未整備か、開示の優先度が低い組織状況を示すことが多い。調達評価では追加の確認質問を設けて開示準備状況を直接問うことが有効。「CDP回答の予定があるか」という質問への回答の質で、ESG対応への組織的な意思を推察できる。

CDPスコアの読み方——調達担当者が知るべき注意点

CDPスコアは開示の「質と量」を評価するものであり、実際の排出削減量を直接測るものではない。Aリスト企業が排出量を多く持っている場合でも、開示の透明性と削減計画の明確さが評価される。調達担当者が見落としやすい点として:

  • スコアと実排出量の非連動:CDPスコアが高い企業が排出量が少ないとは限らない。スコアは開示体制の質を測る
  • 回答数と回答質の差:回答していても、算定方法・境界設定・第三者検証の有無によって情報の信頼性が大きく異なる
  • 業種別基準の差:製造業・小売・金融ではCDP回答の負荷が異なり、同スコアでも体制の成熟度が違う場合がある
CDP情報から調達担当者が読み取るべき3点
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Scope 2の算定方式を確認する

「ロケーションベース」か「マーケットベース」かで値が大きく変わる。マーケットベースを採用し、かつ再エネ証書を購入している企業はScope 2が低く見えることがある。調達の文脈では「実際の再エネ調達手段と証書の種類」まで確認することが推奨される。

02

Scope 3 カテゴリの開示範囲を確認する

Scope 3は15カテゴリあるが、企業によって開示カテゴリ数が異なる。製造業であれば少なくともカテゴリ1(購入した製品・サービス)・カテゴリ11(販売製品の使用)を開示しているかを確認。カテゴリ1の開示は、その企業が自社サプライヤーへのScope 3把握を求め始めるサインでもある。

03

SBTiとの連携状況を確認する

CDPスコアBまたはA企業がSBTiコミットメントを持っているかを確認する。SBTi認定企業は削減目標の科学的根拠が担保されており、長期的な脱炭素コミットの信頼性が高い。CDP上でSBTi情報は「目標」セクションで開示される。

調達評価でのCDP情報活用

調達先のCDP情報を活用する3つの方法
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CDP Supplychain プログラムの活用

自社がCDP Supply Chainに参加することで、サプライヤーに対してCDP回答を要請する形式での質問送付が可能になる。大手日本メーカーはこのプログラムを通じたサプライヤーエンゲージメントを強化している。参加費(年間約100万円前後)が発生するが、数百社への一括質問送付が可能になるコスト効率が高い。

02

公開スコアの定期確認

CDP Japanのウェブサイトでスコアが公開されているため、主要取引先のスコア動向を年次でモニタリングすることが、リスク早期把握につながる。スコア低下や回答取り下げは状況変化のシグナルになりうる。年次でモニタリングリストに主要取引先を登録しておくことを推奨する。

03

EcoVadisとの組み合わせ

CDPが気候・水・森林の環境開示に特化するのに対し、EcoVadisは労働・倫理・調達も含む広範なESG評価を行う。両方の情報を組み合わせることでサプライヤーの多面的なESG実態をより正確に把握できる。CDP+EcoVadisの両方でスコアがある企業は、ESG体制の成熟度が高いと評価できる。

非回答企業への対応——次の一手

CDP回答を開始するには通常6〜12ヶ月の準備期間が必要だ。未回答の取引先に対して「次の年次CDPサイクルで回答予定か」を確認することが、準備状況を測る実践的な質問になる。

取引先がCDP非回答の場合、代替的な評価手段として:

  • 有価証券報告書のサステナビリティ情報欄(2023年より開示義務化)でのScope 1・2データ確認
  • 独自のサプライヤー調査票(Scope 1・2の数値と算定方法を問う)の送付
  • 経済産業省・環境省が提供する「省エネ法定期報告書」のデータ確認(一部企業は公開)

CDPは欧米の大手機関投資家からの要請に基づく質問票であるため、最終的にはプライム市場上場企業は対応せざるを得ない流れにある。中堅製造業にとっては、早期に回答体制を整えることで取引先評価での差別化につながる機会でもある。