SSBJ(サステナビリティ基準委員会)は2025年3月5日、日本初のサステナビリティ開示基準3本(ユニバーサル基準・一般開示基準・気候関連開示基準)を公表した。ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)のIFRS S1・S2を基礎としつつ、日本の規制・会計慣行に合わせた適用要件を設定している。そして2026年2月の内閣府令改正により、時価総額3兆円以上のプライム企業から2027年3月期に義務化されることが確定した。準備フェーズは終わり、適用フェーズに入っている。

SSBJとISSBの位置づけ——制度の全体像

ISSBは2021年にIFRS財団が設立した国際機関で、企業財務に重大な影響を与えるサステナビリティ情報の開示基準を策定している。ISSBが2023年に確定させたIFRS S1(一般開示)・S2(気候関連開示)は、欧州CSRDと並ぶグローバル開示基準の軸だ。

SSBJはIFRS財団との協定のもと、日本向けにISSB基準を適用する機関である。SSBJ基準はIFRS S1・S2の内容を基本的に維持しながら、日本の会計基準(J-GAAP)との整合性を取り、段階適用のための経過措置を設けている。SSBJとISSBは2026年3月31日に両基準の整合性を継続して確認しており、投資家が見るのはISSBとの整合性であるため、実質的な開示要求水準はIFRS S1・S2に準じる。

適用スケジュール——時価総額別の段階義務化(確定)

当初「プライム約1,700社が一律FY2027」と語られていたが、確定したのは時価総額に応じた段階適用である。2026年2月の内閣府令改正で、義務化は次のスケジュールが基本方針となった。

SSBJ基準 義務化スケジュール(時価総額別・内閣府令2026年2月改正)
01

時価総額3兆円以上 → 2027年3月期

最初の義務化対象。先頭集団として2027年3月期の有価証券報告書から適用が始まる。

02

1兆円以上3兆円未満 → 2028年3月期

第2陣。3兆円以上の1年遅れで適用開始が基本方針とされた。

03

5,000億円以上1兆円未満 → 2029年3月期(継続検討)

2029年3月期からの開始を基本としつつ、時期は引き続き検討とされている。

04

5,000億円未満 → 今後検討

適用の要否・時期は今後の検討事項。自社の時価総額区分で適用年度を確認することが第一歩。

開示先は有価証券報告書(有報)だ。金融商品取引法に基づく有報への記載は法的効力を持ち、虚偽記載は同法違反に問われうる。この点がCSRレポートや任意開示との最大の違いであり、開示内容の正確性確保に内部統制・外部保証が必要になる。なお有報のサステナビリティ記載欄は2023年3月期から新設されており、人的資本では女性管理職比率などの指標開示が2026年3月期から適用されている——SSBJ本体の義務化前から、開示の裾野はすでに広がっている。

第三者保証——「翌年から・段階的に」が確定した

SSBJ対応で最も工数のかかる領域が第三者保証だ。制度設計は次のように具体化した。

サステナビリティ情報の保証制度(確定事項)
01

適用開始の翌年から義務化

各社のSSBJ適用開始の翌年から保証が義務化される方針。3兆円以上企業なら2027年3月期開示→翌年から保証、という順序になる。

02

当初2年は範囲を限定

保証範囲は当初2年間、Scope1・2排出量とガバナンス・リスク管理に限定される。全項目・合理的保証へは段階的に移行する。

03

保証実施者は法人登録制

保証業務実施者は登録制となり、監査法人以外も登録可能とされた。監査法人に限らない保証市場が形成される。

04

国際基準との整合

日本の保証基準はISSA5000・ISQM1・IESSAとの整合性が重視される。詳細は別記事(FSA・ISSA5000)で扱う。

ISSB基準との主な差異

SSBJ基準とISSB(IFRS S1・S2)の主な差異
01

Scope 3開示の経過措置

IFRS S2はScope 3(バリューチェーン排出量)開示を求めるが、SSBJ基準では最初の年次報告期間に比較情報とScope 3開示の経過措置がある。ただし投資家・取引先からの開示要求は義務化前から増加しており、大手サプライヤーを持つ企業は早期対応が現実的だ。

02

GHG算定方法の柔軟性

GHG排出量は原則GHGプロトコルで測定するが、日本では温対法(SHK制度)等の方法も使用可能とされた。SSBJは2026年6月に温対法SHK排出量を気候基準開示に活用する実務対応基準第1号を公表し、国内制度との接続を明確化している。

03

適用開始の前倒し可能性

SSBJ基準は公表日以後終了する年次報告期間から任意適用が可能で、3月決算企業は2024年度から早期適用できる。義務化を待たず先行開示する企業も出ている。

04

会計基準との接続

サステナビリティ関連財務開示は財務諸表と同じ報告期間を対象に同時報告する。気候リスクの財務影響がP/L・B/Sのどの科目に紐づくかの判断が、財務部門との協働が必要な核心論点になる。

2026年の最新動向——基準は動き続けている

SSBJ基準は公表後も改正・補助文書が続いており、「2025年版」で止めると実務を誤る。直近の主な動きは次のとおりだ。

  • 実務対応基準第1号(2026年6月11日):温対法SHK制度に基づくGHG排出量を気候基準の開示に活用するための実務対応が新規公表された。国内で既に算定しているSHKデータを開示にどう使うかの指針になる。
  • 有価証券報告書 作成要領(2026年4月10日):2026年3月期提出用の有報作成要領が公表された。記載欄の具体的な書き方の一次資料として参照する。
  • ISSBとの整合性継続確認(2026年3月31日):SSBJとISSBが両基準の整合性継続を確認。グローバル投資家向けの相互運用性が維持されている。
  • 気候関連開示基準の改正(2026年3月):気候基準(第2号)は2026年3月に改正済み。最新版を参照する必要がある。

開示体制構築の実務

SSBJ対応で先行すべき3つの体制整備
01

Scope 1・2の算定根拠を文書化する

電力消費量の計測粒度・排出係数の出典・集計境界を文書化する。保証が当初Scope1・2から始まるため、ここの算定根拠を会計データ並みの内部統制で管理することが最優先。各工場・拠点のエネルギー消費を毎月集計できるダッシュボード整備から着手する。

02

気候関連リスクの財務影響を試算する

炭素コスト・物理的リスク・移行リスクが財務諸表に与える影響をシナリオ別に試算する。CFO・財務部門との連携が必須。まずマテリアリティ評価で影響の大きい2〜3項目に絞って定量化するのが工数効率の高いアプローチだ。

03

開示レビュー体制を整える

有報記載は虚偽記載リスクを伴う。ESG部門の開示草稿を財務・法務・IR・内部監査の4部門がレビューする体制を設計し、保証実施者(法人登録制)との早期協議も並行する。

実務上の優先順位——何から始めるか

適用は時価総額別に段階化されたため、まず自社の適用開始年度の特定が起点になる。そのうえで以下の順で着手する。

Phase 1——基盤整備:

  • 自社の時価総額区分から適用開始年度(FY2027/FY2028/FY2029)を確定
  • Scope 1・2の算定方法の確定と文書化(保証の初年度範囲に直結)
  • 現行の有報サステナ開示とSSBJ要件のギャップ確認

Phase 2——試算とドライラン:

  • 気候関連リスクの財務影響(少なくとも炭素コスト)の定量試算
  • Scope 2のマーケットベース計算への移行(再エネ証書の整備)
  • 保証実施者との協議開始(当初範囲=Scope1・2+ガバナンス・リスク管理)

Phase 3——本番開示・保証:

  • 有報への組み込みと、適用翌年からの保証対応
  • Scope 3開示の段階的拡大(経過措置を踏まえつつ投資家要請に対応)

SSBJ対応はESG部門だけでなく財務・法務・IR・調達を横断するプロジェクトだ。サプライヤー側の準備はSSBJ義務化に向けたサプライヤー準備、保証制度の詳細はFSA・ISSA5000による保証、Scope 3の一次データ収集はサプライヤーからの一次データ収集で個別に扱う。

参照ファクトカード