ベトナム政府は2026年5月、Decree No. 180/2026/ND-CPを公布した。同政令は国内森林炭素クレジットの売買に際してフロア価格制度・農業環境省による公式検証義務・二重計上防止ロックを規定し、2026年7月に施行される。東南アジア有数の森林資源を持つベトナムのカーボン市場が、国際的なカーボンクレジット調達先として本格的に機能する転換点となる。

政令180号の主要規定

政令が定める主要条項は三点だ。第一に、農業環境省(MARD)が排出削減クレジット1トンあたりの価格算定手法を定め、初回売買価格の下限(フロア価格)を義務化する。これによりダンピング的な低価格取引が防止され、市場の価格信頼性が確保される。第二に、クレジット流通前に農業環境省の公式検証を経ることが必要で、プロジェクト品質の外部保証として機能する。第三に、移転済みクレジットはシステムでロックされ二重計上を防ぐ仕組みが導入される。外貨建て取引も認められており、日系企業を含む海外投資家のアクセスを念頭に置いた制度設計となっている。

ベトナムの炭素吸収ポテンシャル

ベトナム農業環境省のデータによると、同国の森林面積は約1,487万ha(国土の約42%)で、天然林1,010万ha・人工林470万haで構成される。Cần Giờマングローブ林(ホーチミン市郊外)だけで年間100〜500万クレジットの供給ポテンシャルがあるとされており、東南アジア最大級のREDD+クレジット供給源となる可能性がある。今回の政令は北中部地域でのパイロット事業(政令107/2022/ND-CP、2026年末まで)の経験を踏まえた本格法制化であり、制度的な成熟度という点でも信頼性が増している。

調達・サプライチェーン担当者への示唆

Scope 3排出量の削減補完手段としてカーボンクレジットを活用する企業にとって、ベトナムは今後有力な調達先として検討に値する。フロア価格・農業環境省検証・二重計上防止という3要件は、主要なボランタリーカーボン市場の基準(Verra VCS、Gold Standard等)と比較しても同等以上の透明性を提供するものだ。ただし政令施行が2026年7月からであり、実際の市場流動性が確立するにはさらに数ヶ月単位の時間を要する見込みだ。2026年度内の実調達を計画する場合は、施行後の制度運用状況と流通クレジット量の動向を継続的に確認することが必要になる。