2025年9月29日、WolfspeedはChapter 11経営再建手続きを完了し、約46億ドル(総債務の約70%)を圧縮した。財務的な即時存続リスクは解消された。しかし2026年5月時点のMohawk Valley Fabは稼働率20%台、GAAPグロスマージンは−27%が続いている。リスクの「質」は変わった——調達の評価軸を更新する時期にある。

再建の経緯と現在の資本構造

WolfspeedはFY2025第1四半期(2024年9月)に債務再編支援協定(RSA)を締結し、上位担保付社債保有者の97%超が合意した状態でChapter 11を申請。「事前パッケージ型」の手続きを採用し、2025年9月29日に再建を完了した。債務削減額は約46億ドル(約70%)、返済期限は2030年まで延長されている。

再建の中核を担ったのがルネサスエレクトロニクスだ。ルネサスは無担保ローンを株式と有担保転換社債へ転換し、Wolfspeedに対して20億ドルのデポジットを伴う10年間のSiCウェーハ供給契約を締結した。2026年1月30日にはCFIUS(対米外国投資委員会)がルネサスへの株式発行を正式承認し、ルネサス副社長のAris BolisayがWolfspeed取締役会に就任した。主要顧客が筆頭株主・取締役として経営に関与するという異例の構造が完成している。

なお再建プロセス中も、Wolfspeedは顧客への製品供給と仕入先への支払いを通常通り継続した。Chapter 11が取引関係に与えた直接的な影響は限定的であったと評価できる。

Q3 FY2026実績が映す現在地

2026年5月5日に発表されたFY2026第3四半期(2026年3月期)決算の概要を整理する。

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売上高は1億5,020万ドルでガイダンス中央値(1億4,000万〜1億6,000万ドル)に一致した。Mohawk Valley Fabからの売上貢献は9,700万ドルで、前年同期の4,900万ドルから約98%増加している。パワー部門(約1億ドル)の90%超がMohawk Valleyから生まれており、同拠点が成長のエンジンであることは数字に表れている。

一方、利益面は依然として厳しい。GAAPグロスマージンは−27%(粗損失4,000万ドル)で、稼働率未充足(アンダーユーティライゼーション)コストが約4,600万ドル発生している。Wolfspeed自身が決算説明会で「稼働率改善がグロスマージン回復の最重要レバー」と繰り返した通り、現状の赤字は固定費の未吸収が主因だ。FY2026第4四半期(2026年6月期)ガイダンスも売上高1億4,000万〜1億6,000万ドル・グロスマージンはマイナス継続の見通しであり、黒字転換の時期はまだ見えていない。

リスクの「質」が変わった——調達評価軸を問い直す

再建前のWolfspeedに対する最大の問いは「この会社が存続するか」だった。その問いは2025年9月に一応の決着を見た。

しかし新たなリスク構造が生まれている。現在の焦点は「Mohawk Valley Fabの稼働率が計画通り上がるか」という製造オペレーション上の問題だ。稼働率が低水準のまま推移すれば、キャッシュの消耗が続き、長期供給コミットへの懸念が再燃しうる。ルネサスの20億ドルデポジットと取締役派遣は同社の存続を支える重要なバッファではあるが、それはWolfspeed-ルネサス間の資本関係であり、他の顧客に同等の保護が及ぶわけではない。

Wolfspeed調達評価軸——再建前後の変化
01

財務存続リスク

Chapter 11完了・46億ドル債務圧縮・2030年返済期限延長で解消。ただしグロスマージンはまだマイナス継続中。

02

供給量コミット能力

Mohawk Valley稼働率が20%台では、大口ロットの優先確保を安定的に約束できる状態にない。稼働率ランプアップの速度が評価軸になる。

03

価格安定性

再建後の財務構造では稼働率向上が急務。大口顧客への価格交渉圧力が高まる可能性があり、長期価格条件の再確認が必要。

04

マルチソース戦略

Infineon・onsemi・STMicro等との複数調達体制は、単なるリスクヘッジから積極的な交渉力確保へと意味が変わりつつある。

経営企画・調達部門が今見直すべきポイントは3点だ。第一に、供給量コミット能力の再確認——現在の稼働率水準でロットを優先確保できる条件は何か。第二に、価格条件の長期契約への落とし込み——稼働率が上がるにつれコスト構造は変化するため、現時点での契約条件が自社に有利である可能性もある。第三に、マルチソース体制の具体化——Wolfspeedを使い続けるか否かよりも、自社のSiC調達が特定サプライヤーの製造リスクに過剰連動していないかを定量的に評価することが問題の核心だ。

Wolfspeedのリスクは「倒産」から「稼働率依存」へシフトした。この変化を正確に把握することが、今後のSiC調達戦略を設計するための出発点となる。

参照ファクトカード