中国の中央網信弁(中央インターネット情報弁公室)など7部門は2026年9月、「促進数字化緑色化協同転型発展実施方案(2026-2030年)」を連名で公布した。この文書に、計算基盤への800V高圧直流給電アーキテクチャの探索と、単一ラック100kW超の展開推進が明記されている。ここでいう計算基盤は、原文では「算力施設」(算力=計算能力)と表記され、データセンターやAI計算センターを指す。
800VDCへの移行はこれまでベンダー主導で進んできた。当サイトでもVertiv・Schneider・Foxconnの導入計画や、Flexによる EPC Power買収を扱ってきた。今回の文書が持つ意味は、その移行に政策レイヤーの後押しが加わったという点にある。
給電アーキテクチャが国家方針に書かれた
文書は計算基盤のグリーン設計の強化という文脈で、液冷放熱・余熱回収・低消費電力チップなどの技術革新と普及を支援するとし、そのなかに800V高圧直流の探索を位置づけている。単一ラック100kW超という数字も併記されており、高密度化と高電圧直流化がセットで語られる構図は、業界の技術動向と一致する。
給電方式という個別の技術選択が国家方針文書に書き込まれるのは珍しい。中国は世界第2位のデータセンター市場であり、そこで政策が特定のアーキテクチャに言及することは、装置サプライヤーの製品計画に影響しうる。
同じ文書が定めるその他の要件
この実施方案はデータセンターの電力に閉じた文書ではない。デジタル化とグリーン化の協調転換という広い枠組みのなかで、複数の要件が並んでいる。
800V高圧直流
計算基盤への800V高圧直流給電アーキテクチャの探索を支援し、単一ラック100kW超の展開を推進する。
再エネ比率
2030年までに計算基盤の再生可能エネルギー消費比率を、省レベルの再エネ消費責任ウエイトと同水準へ引き上げる。
立地誘導
計算資源を風力・太陽光・水力などクリーンエネルギーが豊富な地域へ集積させるよう誘導する。
既存設備の更新
「老旧小散」(老朽・小規模・分散)な計算基盤の設備更新改造を進め、省エネ監察・診断サービスを組織する。
AIモデルの資源開示
AIモデルのリソース消費評価体系を構築し、生成AI事業者に大規模モデルの資源利用状況の自主開示を求める。
5G基地局
液体冷却・自然冷源の放熱技術を逐次導入し、集中型CRANアーキテクチャへの移行を推進する。
注目に値するのは、計算能力と電力の協調発展という項目だ。計算基盤のグリーン電力需要と新エネルギーの消費(系統への取り込み)を一体で捉え、計算と電力の協調的な運用、グリーン電力の直接供給、高効率・長時間・大容量の新型蓄電などの技術と標準の攻略を掲げている。データセンターを電力系統の一要素として設計に組み込む発想で、デラウェア州の自給義務やAmazonの系統連系検討と同じ方向を向いている。
生成AI事業者に大規模モデルの資源利用状況の自主開示を求める規定も含まれる。AIの計算需要そのものを可視化しにいく設計で、電力需要の予測可能性を高める狙いと読める。
装置・部品サプライヤーへの影響
800VDCへの移行で必要になるのは、整流器・固体変圧器・高電圧対応のパワーデバイスだ。これらの需要は従来、ハイパースケーラーの設備計画から逆算して見積もるしかなかった。政策文書に方向が書かれたことで、中国市場向けの製品計画において仕様の前提が読みやすくなる面がある。
ただし文書の表現は「探索を支援する(探索)」であって、特定仕様を義務付けるものではない。強制力の度合いは今後の実施細則や標準策定に委ねられており、現時点で確定しているのは方向性までだ。液冷・余熱回収と並記されている点からも、単一技術への収斂ではなく複数の選択肢を並行して進める建て付けに見える。
日本や欧米のサプライヤーにとっては、中国市場の仕様要求が政策側から形成されていく過程を追う必要が出てくる。給電アーキテクチャの標準化競争は、技術の優劣だけでなく、どの市場がどの方式を国家方針として選ぶかという次元を含みはじめている。
