EV(電気自動車)の普及加速に伴い、車載充電器(OBC)と地上設置型DC急速充電インフラの両分野でパワー半導体の性能要件が急速に高まっている。従来のシリコン(Si)デバイスからシリコンカーバイド(SiC)・窒化ガリウム(GaN)への移行が進む中、調達・設計担当者はトポロジーの変化、定量的な性能優位性、機能安全要件を横断的に把握する必要がある。
EVのバッテリー電圧は400Vから800Vへの移行が進んでおり、高性能車を皮切りに普及が始まっている。この高電圧化は充電効率向上とケーブル軽量化をもたらす一方、パワーデバイスに対する耐圧・スイッチング損失・熱管理の要求を一段と厳格化している。
OBC(車載充電器)
AC入力をバッテリー用DCに変換。3.3〜22kW。単方向/双方向の2タイプ。車体搭載のためサイズ・重量制約が厳しい。
DC急速充電(EVSE)
地上設置型。25kW〜350kW超。IEC 61851準拠が欧州市場の前提要件。
V2X対応双方向OBC
V2G・V2H・V2V等の逆潮流機能を実現。SiC/GaNのワイドバンドギャップデバイスが双方向動作に必要。
SiC採用効果(vs Si)
損失最大30%削減・パワー密度最大50%向上・システムコスト最大15%削減(Wolfspeedデータ)。
OBCトポロジーの変化:単方向から双方向V2Xへ
OBCの充電出力は電動スクーター向け2kW未満から高級EV向け22kWまで幅広く、特に6.6kW〜22kW帯でSiCの優位性が顕著である(Wolfspeed)。基本構成は入力側のAC/DCコンバータ(PFC段)と絶縁型DC/DCコンバータの2ブロックからなる。
PFC段ではトーテムポール型の採用が拡大している。トーテムポールPFCはブリッジ整流器を排除し、導通経路の半導体素子数を3個から2個に削減することで損失を低減し、かつ双方向動作を実現する。この双方向対応がV2H・V2G・V2Vを含むV2Xユースケースの物理的基盤となる。InfineonはSiC/GaNベースのワイドバンドギャップチップが将来のV2L・V2H・V2Gユースケースに不可欠と位置づけている。
価格競争が激化する量産EV市場では、モジュールからディスクリート部品への移行が進む傾向をInfineonは観測している。Si・SiC・GaNを組み合わせ可能なスケーラブルなチップセット提供は、コスト感応度の異なる複数のEVプラットフォームへの対応を可能にする。
SiC採用の定量効果
WolfspeedのSiC MOSFETを採用したOBCでは、従来シリコン比で損失を最大30%削減できるとされる。この損失低減は冷却系の簡素化によるシステムコスト最大15%削減につながり、素子単価がSiより高いSiCの総保有コスト(TCO)上の競争力を裏付ける。パワー密度は最大50%向上し、車体スペース制約の厳しいEVでの搭載自由度を高める。
具体的な設計事例として、Wolfspeedの1200V C3M™ SiC MOSFETを用いた22kW三相双方向AFEコンバータはPFCモード・インバータモードの両方でピーク効率98.5%・パワー密度4.6 kW/L・スイッチング周波数45kHzを達成している。
DC急速充電:25kW〜100kWクラスの設計要件
地上設置型DC急速充電器ではOBCより高出力が求められる。onsemiのリファレンス設計(SEC-25KW-SIC-PIM-GEVK)は1200V EliteSiC SiCパワー統合モジュールを採用し、出力電圧200V〜1000Vをカバーして400V・800V両系EVバッテリーへの充電に対応する。三相PFCとDABトポロジーにより双方向電力変換も実現し、全出力域で96%以上の変換効率を達成している。入力仕様はEU向け400Vac・米国向け480Vacに両対応している。
欧州市場向けEV充電インフラの展開にはIEC 61851(EV充電設備規格)とEMC規格EN55011 Class Aへの準拠が前提要件となる。onsemiのリファレンス設計はこれらを設計段階から織り込み、認証取得プロセスの短縮を図れる構成となっている。onsemiはAC Level 1/2から高出力Level 3 DC急速充電まで乗用EV・商用車・農業向けフリートを対象にカバーする製品群を展開している。
機能安全:ASIL-DとISO 26262
車載電装品はISO 26262に基づく機能安全規格への適合が必須であり、要求安全水準はASIL-A〜Dで規定される。InfineonのOBC向けチップセットは最高安全レベルであるASIL-Dをサポートしており、Tier1サプライヤーが個別認証取得に要するコストと期間の削減に寄与する。
調達・設計担当への示唆
800V対応は新興EVプラットフォームへのサプライヤー認定において事実上の前提条件となりつつある。onsemiのOBCソリューションは3.3kW〜22kW・最大800Vをカバーし、EliteSiC MOSFETからハイブリッドIGBTまでコスト感応度に応じた選択肢を提供する。SiCとSiのハイブリッド構成は、量産コストと性能のバランスを取る車種に対して現実的な移行経路となる。
Infineonが指摘するようにコスト圧力下ではモジュールからディスクリート部品選定が主流になる局面もある。調達戦略はモジュール採用かディスクリート最適化かを用途・量産規模・設計余力で判断する必要がある。DC急速充電器の競合設計評価では、変換効率・パワー密度・IEC 61851準拠の3点が一次フィルタリング基準として機能する。