onsemiは2026年9月16日、Embedded Power Platform(EPP)という新しいパワーデバイスのアーキテクチャを発表した。アリゾナ州スコッツデールを本拠とする同社が、自動車・産業・AIデータセンターの3分野を横断するプラットフォームとして位置づけている。

発表の核心は電力密度の数字ではなく、設計の切り分け方そのものを変えたという点にある。

シリコンウェハーをパッケージ基盤として使う

EPPは、シリコンウェハー自体をパッケージの基盤として使用する。複数のダイを1つのシリコンデバイスに集積し、電気・機械・熱の特性を単一アーキテクチャ内で同時に最適化する設計だ。

この違いは実務上、責任分界点が動くということを意味する。パワーデバイスの設計では長らく、ダイの設計とパッケージ・実装の設計が別の工程として扱われてきた。デバイスメーカーがダイと標準パッケージを供給し、熱と機械の設計は基板・モジュール側で詰める、という分担だ。

ダイとパッケージが一体になると、この分担が成立しなくなる。熱設計と機械設計の一部がデバイスの内側に入るため、システム側で調整できる余地が減る。onsemiはこれを設計複雑性の低減として説明しているが、複雑性が消えるわけではなく、位置が移る。

電力密度は現行比で最大3〜5倍

onsemiは、EPPが既存のパワーシステム設計と比較して最大3〜5倍の電力密度を達成するとしている。電気・機械・熱の設計を初期段階から統合することで、システム性能の向上と開発の加速を可能にするという説明だ。

この数字の読み方には注意が要る。示されているのは「既存のパワーシステム設計との比較」であり、特定のデバイス単体の比較ではない。パッケージと実装を含めた系での比較と理解するのが妥当で、どの構成を基準に取るかで数字は変わりうる。適用条件やベンチマーク対象の詳細は、今回の発表では示されていない。

それでも方向性としては一貫している。AIデータセンターの電源設計でも、800VDCへの移行でも、律速になっているのは素子の性能というより、その性能を実装レベルで取り出せるかどうかだった。パッケージ側に手を入れるアプローチは、この制約に正面から向き合うものだ。同じ問題意識はSiCモジュールのパッケージ技術の流れにも見て取れる。

3つの垂直市場を1つのアーキテクチャで狙う

EPPが対象とする3市場
01

自動車

電動化・自律走行向け。電力要件と信頼性要求が最も厳しい領域。

02

産業機器

産業用電源・モータードライブ等。用途の幅が広く、要求仕様が分散する。

03

AIデータセンター

急増する電力需要に対応する電源系。電力密度と効率の要求が最も速く上がっている。

3市場を単一アーキテクチャでカバーするという戦略は、スケーラビリティを前提としている。異なる電力要件を持つ複数の垂直市場に同じ設計思想で対応することで、開発投資を分散させずに済むという構図だ。

一方で、この3市場は要求される信頼性の水準も、製品寿命も、認証の枠組みも異なる。自動車向けの要求で設計されたものがデータセンターで過剰になり、データセンターの更新サイクルで最適化したものが自動車の寿命要件に届かない、という緊張は残る。プラットフォームの汎用性がどこまで実用になるかは、個別の適用事例を見るまで判断できない。

設計・調達側が持っておくべき問い

EPPのようなアーキテクチャが広がった場合、影響が出るのは性能の数字より設計の自由度と切り替えコストだ。

第一に、自社のシステム設計上の差別化が、どこにあるかを確認しておく価値がある。熱設計や実装の作り込みで性能を出しているなら、その部分をデバイス側が取り込むアーキテクチャは、差別化の源泉を減らす方向に働く。逆に、そこに人手をかけられていないなら、同じ性能を少ない工数で得られる。

第二に、切り替えコストの変化だ。ダイとパッケージが一体化したデバイスは、代替品への置き換えが難しくなる。標準パッケージであれば他社品との互換性で逃げ道があったが、独自アーキテクチャではそれが利かない。供給リスクの評価軸が、価格と納期から設計の可搬性に移る。

現時点で公表されているのは、アーキテクチャの考え方と電力密度の目安、そして対象市場の3分野までだ。製品ラインナップ、サンプル提供時期、量産時期については、今回の発表では示されていない。

参照ファクトカード