Resonacは2026年9月15日、次世代エレクトロニクス材料である300mm(12インチ)SiC単結晶の育成・加工に成功したと発表した。同社自身の調査(2026年8月時点・公開情報を参照)によれば、現在開発中のSiC基板サイズとしては世界最大級にあたる。
注目すべきは、この発表が量産の話ではないという点だ。SiC基板の大口径化は、150mm(6インチ)から200mm(8インチ)への移行がようやく始まったところにある。その最中に、さらにその先の寸法で結晶を育て、加工まで通したという位置づけになる。
「主力は6インチ、8インチは出荷開始」という現在地
ここを取り違えると発表の意味を読み誤る。市場の主流は依然として150mmであり、Resonacもそこを主力に供給している。200mmエピタキシャルウェハについては既に出荷を開始しているが、量産の主戦場が移りきったわけではない。
つまり300mmは、供給計画にすぐ組み込める選択肢としてではなく、大口径化のロードマップがどこまで伸ばせるかを示す技術的な到達点として受け止めるのが妥当だ。当サイトでも8インチ基板の供給準備状況や三菱電機とCoherentの8インチ基板の動きを扱ってきたが、業界全体としてはまだ8インチの立ち上げ局面にある。
その前提で見ると、300mmの意味は「いつ買えるか」ではなく「大口径化の天井はまだ先にある」という情報になる。基板コストが枚数あたりでなくチップ数あたりで効いてくる以上、口径の上限がどこにあるかは中期の価格見通しに直結する。
NEDOグリーンイノベーション基金が背景にある
今回の成果は、2050年カーボンニュートラルの実現を支援するためにNEDO(日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構)内に設置されたグリーンイノベーション(GI)基金の「次世代グリーンパワー半導体用SiCウェハ技術開発」プロジェクトの研究開発成果を取り込んでいる。
大口径SiC基板の開発が公的資金の支援下で進んでいるという事実は、調達側にとって一つの読みどころになる。どの国が、どの段階の技術に資金を張っているかが、数年後に誰が先に大口径を供給できるかに反映されやすいからだ。SiC基板は結晶成長の歩留まりが投資回収を左右する領域であり、単独企業の判断だけで開発速度が決まるとは限らない。
用途がパワーデバイスの外へ広がっている
もう一つ、この発表で見落とせないのが用途の記述だ。
パワーデバイス
従来からの中核用途。シリコン系より電力変換損失が低く発熱も少ないため、EV・再生可能エネルギー向けを中心に採用が拡大している。
AIサーバー・HPCの放熱
高い熱伝導率を活かし、半導体のヒートスプレッダ基板および先端パッケージング基板としての採用可能性。
光学用途
高屈折率特性を活かしたARスマートグラスなどへの応用が候補として挙がっている。
SiCの需要は従来、EV・再生可能エネルギー・データセンター電源という電力変換の3分野で語られてきた。ここにAIサーバーの放熱材料という別系統の用途が加わると、需要の主因が変わる可能性がある。
放熱用途は、電力変換用途とは求められる特性が異なる。デバイスとして動作させるための欠陥密度の要求より、熱伝導と基板の平坦性が効く領域だ。仮にこの用途が立ち上がれば、パワーデバイス向けには使いにくいグレードの結晶に出口ができることになり、結晶成長の経済性そのものが変わる。大口径化の投資判断にも影響しうる。
調達・設計側が今から見ておくこと
300mmは当面、調達の選択肢ではない。それでも押さえておく価値があるのは次の2点だ。
第一に、8インチ移行の見通しを立てる際の参照点として。口径の技術的な上限がさらに先にあるなら、8インチは通過点であって終着点ではない。長期の供給契約を結ぶときに、口径世代の切り替わりをどう織り込むかという設計が要る。
第二に、SiC基板の需要構成が変わるリスクとして。AIサーバー向けの放熱・パッケージング用途が本格化すれば、パワーデバイス向けの基板供給と需要を奪い合う局面が生じうる。SiC基板の価格動向を見るときに、EV需要だけを変数にしていると読み違える。
現時点で確定しているのは、Resonacが300mmの育成・加工に成功したという事実と、同社の量産の現在地が150mm主力・200mm出荷開始であるという事実の2つだ。量産時期や供給計画については、今回の発表では示されていない。
