インド初の先端半導体工場に向けた準備が、2026年5月に一気に具体化した。
5月16日、タタ・エレクトロニクス(Tata Electronics)はオランダのASMLと覚書(MOU)を締結した。モディ首相のオランダ公式訪問に合わせたこの発表は、単なる装置調達の約束ではなく、インド政府が国策として推進する半導体自立化の節目となる出来事だ。協力の範囲はEUV/ArFリソグラフィ装置の供給から技術移転・人材育成まで包括的な内容とされる。
タタが建設を進めているのは、グジャラート州ドレラの110億ドル規模のファブだ。台湾のPSMCと提携し、28〜110nmプロセスに対応。300mmウェハ換算で月産5万枚を目標に、2028年の量産開始を目指している。
インドへの半導体投資がここにきて「構想段階」から「装置・技術の確保段階」へと移行しつつある。装置サプライヤーが関与すると、工場建設のタイムライン、技術仕様、人材要件が具体化する。発表から量産までの道のりには多くの課題が残るが、起点としての意味は重要だ。
ローム、インド半導体エコシステムに早期参画
日本企業の動きも始まっている。ロームは2025年12月、タタ・エレクトロニクスとのパートナーシップを発表し、SiCおよびGaNパワーデバイスの共同開発・製造に向けた協力関係を構築した。2026年には100V/300AクラスのSiMOSFETの量産も予定しており、インドの製造キャパシティを活用したパワー半導体サプライチェーンの一端を担う方向性が明確になってきた。
インテルやクアルコムもインドへの研究開発・製造投資を拡大しており、グローバルな半導体企業がインドを中長期のサプライチェーン多様化先として本格的に位置づけ始めている。
投資規模
110億ドル。インド政府のPLI(生産連動インセンティブ)スキームによる補助が含まれる。
プロセス・パートナー
台湾PSMC(Powerchip Semiconductor Manufacturing Corp)と提携。28〜110nmプロセスに対応。
生産能力目標
300mmウェハ換算で月産5万枚。量産開始目標は2028年。
ASMLとの協力内容
EUV/ArFリソグラフィ装置の供給に加え、エンジニア育成と技術移転を含む包括的な協力。
経営・調達・設計への示唆
インドが「中国の代替になりうるか」という問いへの答えは、今すぐYESとは言えない。2028年の量産開始はあくまで目標であり、装置・材料・エンジニアの安定確保が前提条件として積み重なっている。
ただし重要なのは、インドが製造大国になる「手前の段階」がすでに始まっているという事実だ。部品調達のルート多様化や設計・製造パートナーの選定を検討する経営企画・調達・設計の各部門にとって、インドのサプライチェーン構築がどのペースで進んでいるかを今から定点観測しておくことは、3〜5年後の選択肢を実質的に広げることにつながる。
