日本の経済産業省は2026年9月25日、産業構造審議会の排出量取引制度小委員会(第9回)で、排出量取引制度(GX-ETS)の上限価格と下限価格の措置がいつ発動するかの事務局案を示した。2026年度の価格帯は上限4,300円、下限1,700円(いずれも1トンCO2あたり)として告示済みで、今回はその価格帯を守る仕組みの詳細設計にあたる。

案の柱は、上限・下限とも月平均の取引価格が3か月連続で価格帯を外れたら発動するという対称的な要件だ。小委員会は年末ごろをめどに取りまとめ、関連する省令・告示を整える。

価格帯:年3%ずつ切り上がる

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2027年度以降の上下限価格は、毎年度、前年度の価格に3%と物価上昇率の見通しを反映して決める。経済産業省が3%の上昇だけで機械的に計算した参考値では、2030年度に上限4,840円、下限1,913円となる。実際の告示額はこれに物価上昇率が加わる。

上限側:支払いで義務を果たす「みなし保有措置」

月平均は、その月の市場開設日の7割以上で取引が成立した月に限って計算する。判定期間は、ある年度(T年度)の義務分について、翌年度(T+1年度)の4月から、排出枠の保有義務期限である1月まで。比較に使うのはT+1年度の上限価格だ。排出量が確定し、不足分を買い集める時期に判定を合わせている。

数量要件は、価格がつかないまま調達できない事態を拾うためのものだ。保有義務量が通知された後の12月以降に、上限価格以下の売り注文がない状態、または上限価格以下の売りがすべて約定しても買い注文が残る状態が1か月以上続けば満たす。

事務局案は、要件を満たせば政府が高騰の要因を個別に判断せず、原則として発動するとした。発動の可否が政府判断に委ねられると、上限価格が安全弁として機能しなくなるためだ。発動状況は制度開始後にモニタリングし、要件の厳格化・緩和も含めて見直す。

下限側:GX推進機構によるリバースオークション

下限価格の要件は上限と対称で、月平均取引価格が3か月連続で下限価格を下回ると発動する。判定期間は限定せず、年度をまたいでも判定する。

見るポイント
01

買入れの方式

GX推進機構が排出枠取引市場の外でリバースオークションを実施。全落札者に共通価格を適用するシングルプライス方式。

02

非公表の要素

買入量の算定式と、市場価格以上・下限価格未満で設定する買入上限価格は公表しない。応札が下限価格付近に集中するのを防ぐ。

03

参加者

排出枠取引市場の参加者と同じ範囲(制度対象者と、一定の実績・体制を持つ事業者)。

04

売渡し

直近1か月の平均価格が上限価格の近くに達したら、買い入れた排出枠を複数回に分けて売り渡す。詳細要件は非公表。

買い入れた排出枠を、価格高騰の局面で供給源として使う設計で、上下両方向の安定化を1つの在庫で担う。リバースオークションを行っても価格が低迷する場合は、割当基準の厳格化も検討する。政府の有償オークションが始まる2033年度以降は、リバースオークションをやめ、オークションの入札価格に下限を設ける方式に切り替える。

海外制度との比較:判定期間は最短

日本(案)
発動の判定
月平均が上限価格(絶対額)を3か月連続で上回る
EU
発動の判定
直近6か月のオークション価格平均が直近2年平均の2.4倍を超える
英国
発動の判定
月平均が過去2年平均の3倍を6か月連続で上回る(制度開始当初は3か月)
韓国
発動の判定
月平均が過去2年平均の3倍を6か月連続で上回る場合など
カリフォルニア・ニュージーランド
発動の判定
四半期ごとのオークション価格で判定

経済産業省は、価格高騰に機動的に対応するため、諸外国の例のうち最も短い3か月を採ったと説明している。欧州型は過去平均に対する倍率で判定するのに対し、日本案は告示した絶対額との比較になる。企業から見れば、上限価格がそのまま炭素コストの上限として読める。

企業の炭素コスト管理にとっての意味

  • 上限価格を計画値に使える:要件を満たせば原則発動とされたことで、4,300円(2026年度)を排出枠コストの上限として事業計画や内部炭素価格に置きやすくなる。ただし発動は3か月の継続が前提で、その間は上限を超える価格での調達がありうる
  • 下限側の非公表要素:買入上限価格と買入量の算定式は公表されない。下限価格で確実に売れるわけではない点は、余剰枠を持つ企業の収益見込みに影響する
  • 制度対象の取引先がいる場合:GX-ETSの対象企業がサプライヤーに削減やデータを求める流れは中堅サプライヤーへの波及で見たとおり。価格帯と発動要件が固まることで、排出削減の費用対効果を比べる基準ができる
  • 今後の論点:次回以降はバンキング(排出枠の持ち越し)の適正化措置と割当量の公表を議論する。排出枠取引市場の開設は2027年度秋ごろの予定

参照ファクトカード