固体変圧器(SST)を手がける米DG Matrix(ノースカロライナ州)は2026年9月24日、STMicroelectronics(ST)の最新世代シリコンカーバイド(SiC)デバイスを使い、多ポートSSTプラットフォームInterport™の出力を200kWから400kWへ倍増したと発表した。電力モジュールの設置面積は実質的に同じで、効率は98.5%超としている。
SSTはAIデータセンターの800VDC給電への移行とともに、構想から実装の段階に入りつつある。今回の発表で注目すべきは効率の数字よりも、同じ設置面積で出せる電力が2倍になったという点だ。
設置面積を増やさずに出力を倍増
DG Matrixは創業当初からInterportの中核にSTのSiC技術を使ってきた。発表によると、今回の出力倍増はSiC技術による性能向上によるもので、「電力モジュールの設置スペースを増やさずに、より多くの電力を供給する」という原理が、大規模AIデータセンターの成長を支えるうえでますます重要になっているとしている。
データセンターでは、受変電・電力変換の設備が占める面積は、GPUを並べる床面積と取り合いになる。ラックあたりの電力が上がるほど、電気室側の機器にも同じ比率の高密度化が求められる。SSTの評価軸が「変換効率」から「単位面積あたりの出力」へ広がりつつあることを示す発表と読める。
背景:600kW級ラックと800VDC移行
DG Matrixは発表の中で、米調査会社SemiAnalysisの見立てを引いている。
ラック電力密度
GPUラックの電力密度は600kWを超える水準に上昇し、ハイパースケーラーは800VDC配電への移行を加速している。
800VDCの規模
800VDC電力アーキテクチャは2030年までに約39GWの新規データセンター容量を支える。
SSTの位置付け
SSTを800VDC移行の中核技術とし、数十億ドル規模の機会と位置付ける。
これらの数値はDG Matrixの発表が紹介する第三者の予測であり、同社自身の実績値ではない点には注意が要る。ただし方向性は、800VDC給電への移行をめぐってこれまで伝えられてきた流れと一致している。
STの関与は部品供給にとどまらない
DG Matrixによると、STはSiCデバイスを供給するだけでなく、Interport内でのSiCデバイスの使い方を最適化するための技術支援を提供してきた。逆にDG Matrixからは、電圧・電流・熱性能といったシステム側の要件を、STの将来世代パワーデバイスに向けてフィードバックしている。
使われているSiC部品は、STが電気自動車のパワートレイン向けに供給しているものと同じだという。発表は、車載という最も厳しいパワーエレクトロニクス環境での実績が、データセンター用途での性能と信頼性の裏付けになるとしている。同社はまた、STのSiCデバイスがサージ電流耐量に優れる点を挙げ、AIワークロード特有の過渡的な負荷変動に対応するうえで重要だとしている。
STは2026年第2四半期決算でデータセンター向けに強気の見方を示していた。車載で量産実績を積んだSiCを、SSTという新しい電力機器に振り向ける動きの一例といえる。
設計・調達側の確認ポイント
DG Matrixは今後、より高電圧の中圧プラットフォームに注力し、ハイパースケーラーやネオクラウド、電化用途での量産拡大を目指すとしている。将来世代のSiC技術を製品ロードマップに取り込む方針だ。
SSTを検討する側にとっては、次の点を押さえておきたい。
- 出力と設置面積の比率:同じ電力を受けるのに必要な電気室の面積が、サイト計画上の制約になりうる
- SiCの供給元と認定状況:車載と同じ部品であれば、車載需要との取り合いや認定済み品の範囲が調達条件になる
- 中圧対応の時期:現行の400kW品と、同社が注力する高電圧中圧品の投入時期は分けて確認する必要がある
今回の発表では、400kW品の出荷時期や価格、採用顧客名は示されていない。