「中国製IGBTは欧日系より30〜50%安い」という認識は調達の現場に定着しつつある。だがその「安さ」の構造を理解するには、中国メーカー自身の財務データを見るのが早い。上場企業の開示が示す実態と、デバイス単価の外にある隠れたコストを整理する。

価格競争の実態——中国側のマージンが物語るもの

上海証券取引所上場の斯達半導体(Starpower Semiconductor、603290.SS)の2024年決算では、粗利益率が前年の37.51%から31.55%へと約6ポイント低下した。売上高も前年比7.4%減の33.9億元と減収だ。新エネルギー(EV・再生可能エネルギー)向けは同社の主要セグメントであるにもかかわらず、価格競争による単価下落が収益を直撃している。

同様に、香港証券取引所上場のCRRC Times Electric(株洲中車時代電気、3898.HK)も2025年年次報告書において半導体部門のマージン圧迫を明記している。中国国内EV・鉄道向けIGBTの価格競争激化と製造コスト上昇を要因として挙げている。

これが意味するのは、中国IGBTの「低価格」は必ずしも低コスト構造の反映ではなく、市場シェア獲得を優先した価格攻勢の側面が強いということだ。価格競争が落ち着いた後に価格が戻るのか、収益性の低下が供給能力や品質維持投資の棄損につながるのか——この不確実性は調達計画に組み込むべきリスク要素となる。

欧州勢のシェアは拡大している

この価格圧力にさらされながら、Infineon Technologiesは2025年のパワー半導体世界市場シェアを36.0%(前年比+3.9ポイント)に拡大した(2026年4月プレスリリース)。CEOのJochen Hanebeck氏はFY2025第4四半期(2025年11月)の決算説明会で、中国EV市場の価格競争を「自動車部門の逆風」と認めながらも、技術力と顧客との協業によって競争力を維持していると述べている。

InfineonとMitsubishi Electricが中高級市場をリードする構図は維持されている。中国勢のBYD半導体・Starpower・CRRCは主に中国国内向けの低〜中級市場で急速にシェアを伸ばしている。乗用EV向けIGBTの国内自給率は2025年時点で50%を超えたとされるが、これは中国国内市場の話であり、欧州・日本の産業機器・鉄道・グリッド向け高信頼性用途では競合構図が異なる。

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見えにくいコスト——TCOで考える

デバイス単価の差が30〜50%あるとしても、それがそのまま調達コスト削減につながらない理由がある。

認定コスト: 車載グレードIGBTにはAEC-Q101規格に基づく信頼性認定が必要で、一般に18〜36ヶ月のサンプル評価・環境試験・量産プロセス監査を要する。中国新興メーカーの車載グレード品はこの認定実績が浅いケースが多く、採用側が評価工数を負担するか、非認定品のリスクを引き受けることになる。

設計変更コスト: サプライヤー切り替えには保護回路の再調整(DESAT閾値・ブランキング時間の見直し)、EMC再評価、システム適合試験が伴う。既存の設計が特定メーカーのスイッチング特性に最適化されている場合、この工数は無視できない規模になる。

保証・フィールドリスク: フィールド不具合時のサポート体制、不具合解析の応答速度、トレーサビリティの担保は、欧日系大手と新興中国メーカーとで依然として差がある。産業機器や社会インフラ向けでは、この差がシステム停止リスクのコストとして顕在化する。

中国製IGBT採用時のTCO構成要素
01

デバイス単価

欧日系比で30〜50%安とされる。ただし電圧帯・グレード・ロット規模により実際の差は変動する。

02

認定コスト

車載用途ではAEC-Q101認定に18〜36ヶ月の評価工程が必要。認定実績のない品種では採用側が評価コストを負担する。

03

設計変更コスト

保護回路再調整・EMC再評価・システム適合試験。既存設計が欧日系の特性に最適化されているほど切り替えコストが高くなる。

04

供給リスクプレミアム

価格攻勢局面でのマージン圧縮が長引けば、将来の供給能力・品質維持への投資余力が低下するリスクがある。

用途別の使い分けが現実解

中国製IGBTが合理的な選択肢になる用途と、そうでない用途はある程度分けられる。

中国国内拠点向けの産業用インバータや仕様が比較的安定したコンシューマー・商業用途では、中国メーカーのサポートネットワークと価格優位性を活かせる可能性がある。一方、欧州・日本での製品安全認証(TÜV・ULなど)や長期保証が求められる用途、鉄道・医療・グリッドインフラなど高信頼性が不可欠な用途では、認定実績と技術サポートを持つ欧日系の優位性が今も有効だ。

調達部門として取るべき行動は「中国製に切り替えるかどうか」という二項対立ではなく、用途ごとにTCO全体を試算した上でサプライヤー構成を最適化することだ。Infineonが価格圧力下でもシェアを拡大し続けているという事実は、価格だけが調達の決め手でないことを市場が示している証左でもある。

参照ファクトカード