Infineon Technologiesは2026年8月24日、C2i Semiconductorsの買収を発表した。AIデータセンター向けパワーソリューションでの主導的地位を強化し、「グリッドからコアまで(grid to core)」を掲げるソフトウェア定義型パワーアーキテクチャ戦略を加速することが目的とされる。買収額や株式比率などの財務条件は公表されていない。
買収対象は「チップ直下」の電力供給技術
C2i Semiconductorsが持つのは、垂直電力供給(Vertical Power Delivery)向けのシステムレベルパワーアーキテクチャの技術だ。とくに基板集積型電圧レギュレータ(Substrate Integrated Voltage Regulators: SIVR)の設計・開発に知見を持つ。
垂直電力供給は、AIアクセラレータの消費電力が上がるにつれて重要性が増している領域だ。従来のようにプロセッサの横(水平方向)から電力を供給する構成では、給電経路が長くなり配線抵抗による損失と電圧降下が無視できなくなる。プロセッサの直下(垂直方向)から供給することで経路を短縮し、損失を抑えて高い電流を安定して供給できる。SIVRは電圧レギュレータをパッケージ基板に統合することでこの経路をさらに詰める手法にあたる。
「グリッドからコアまで」の意味
今回の買収は、Infineonが掲げるエンドツーエンドのパワーアーキテクチャ戦略の一環と位置づけられている。電力網への接続から半導体コアへの電力供給までを一貫してソフトウェア定義で管理する体制を目指すもので、C2iの技術はこの構想のうちチップレベルの給電側を補強する。
系統接続側
データセンターへの受電、変圧・整流。SiCデバイスや固体変圧器(SST)が担う領域で、Infineonは既存のSiC・IGBT製品群でカバーする。
ラック給電
48V/400V/800V DCの配電アーキテクチャ。高電圧化により配電損失とケーブル重量を抑える方向で業界が動いている。
ボード・チップ直下
今回の買収が補強する領域。垂直電力供給とSIVRにより、アクセラレータ直下での高電流・低損失の給電を狙う。
統合レイヤー
各段をソフトウェア定義で管理する構想。個別デバイスの性能だけでなく、系統からコアまでの一貫制御が競争軸になるという見立て。
パワー半導体各社がAIデータセンター向けで競っているのは、単体デバイスの性能だけではなくなってきている。受電から配電、ボード上の変換、チップ直下の給電までの各段を、どこまで一社で押さえられるかという構図に移りつつある。今回の買収は、Infineonがその最終段にあたるチップ直下の技術を外部から取り込んだ動きと読める。
設計・調達側の見方
この買収が短期的に製品ラインアップへ反映されるかは、現時点の公表情報からは判断できない。財務条件も統合スケジュールも公開されていないため、確認できるのは戦略の方向性までだ。
そのうえで見ておく価値があるのは、垂直電力供給とSIVRという技術領域そのものの位置づけだ。AIアクセラレータの消費電力が上がり続ける限り、給電経路の短縮は避けて通れない設計課題になる。この領域の技術を持つ企業が大手に取り込まれていく動きが続けば、選択肢の集約が進む可能性がある。電源設計でこの階層を扱う立場からは、サプライヤー各社がどの段を自社で押さえにいくかという構図を追っておくと、数年先の調達先の姿を見積もりやすい。