増やす者と、絞る者
同じ2026年に、大手パワー半導体メーカーが正反対の設備戦略を打ち出した。Infineonは世界最大級の新工場を開所し、onsemiは逆に工場を手放す。拡張と身軽化が同時に進む——この二極化は、SiC減損局面を経たパワー半導体業界が、需要の行き先を見極めながら製造資産の持ち方を組み替えていることを示す。調達側から見れば、供給先の「増設か・集約か」は供給継続性を測る材料になる。
Infineon——世界最大級の工場で「増やす」
Infineonは2026年7月2日、ドレスデンに世界最大級のパワー半導体・アナログ/ミックスドシグナル工場を開設した。投資額は50億ユーロ、約1,000人の雇用を創出する大型案件だ。狙う用途は明確で、AIデータセンター電源・再生可能エネルギー・電力網(グリッド)・SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)を対象に据える。減損でSiC投資に急ブレーキがかかった企業が相次いだ局面でも、Infineonは前工程能力の増強に踏み込んだ。需要の柱をAIデータセンターと電力インフラに置き、そこへ供給能力を先行して積む判断だ。
onsemi——2工場を手放して「絞る」
対照的に、onsemiはFab Right戦略の一環で製造拠点を売却する。フィリピンのタルラック工場をGreatek Electronics(台湾)へ売却で合意し、ペンシルバニア州のMountain Top工場をSilex Microsystems(スウェーデン)へ2028年1月のクロージング予定で譲渡する。2拠点の売却で年間約3,500万ドルのコスト削減効果を見込み、2028年に全額を実現するとしている。onsemiのFab Right戦略は、自動車・産業・AIデータセンター向けパワー半導体に製造資源を集中させる考え方で、汎用性の高い拠点を手放して高付加価値領域に絞り込む。
売却先にも意味がある。Greatekはフィリピン拠点の取得でパッケージング能力を拡大し、Silexはonsemiのペンシルバニア工場を取得する。onsemiが手放した設備は、別のプレイヤーの能力として供給網に残る。
二極化の読み方
Infineonの「増設」とonsemiの「集約」は、矛盾ではなく同じ需要観の裏表だ。両社ともAIデータセンターを主要用途に挙げる。違うのは資産の持ち方で、Infineonは自前能力を厚くし、onsemiは身軽にして高付加価値へ集中する。減損局面の教訓——需要の読み違いは過剰設備として跳ね返る——を踏まえ、各社が「どこに賭け、どこを手放すか」を選び直している。
Infineon:増設
ドレスデンに世界最大級fabを開所(50億ユーロ・約1,000人)。AIデータセンター電源・再エネ・電力網・SDVを狙い、自前能力を厚くする。
onsemi:集約
Fab Right戦略で2工場を売却(タルラック→Greatek、Mountain Top→Silex 2028年1月)。年約3,500万ドルのコスト削減、自動車・産業・AI DCに集中。
共通の需要観
両社ともAIデータセンターを主要用途に。資産の持ち方(自前増強か・集約か)が分かれるだけで、賭ける先は近い。
供給網への含み
onsemiが手放した拠点はGreatek/Silexの能力として残る。調達側は各社の増設/集約が供給継続性に与える影響を追う価値がある。
事業への影響と確認ポイント
調達・投資の観点で見ておきたいのは、①採用先メーカーが増設方向か集約方向か(供給能力の先行き)②集約で手放された拠点が誰の能力になり、どの用途を担うか③各社が「主要用途」に挙げる領域(AIデータセンター・自動車・産業)と自社の調達品目が一致するか——である。設備の増減は単なる企業ニュースではなく、数年後の供給継続性と価格の先行指標として読める。減損の次に来ているのは、需要を見据えた製造資産の組み替えだ。
主要メーカーの増設・減損・供給契約・ウェハ大口径化の動きは、パワー半導体 供給・能力トラッカーで定点整理しています(CSV/JSONダウンロード可)。