減損の次に来ているもの

SiC事業の大型減損が相次いだあと、ワイドバンドギャップ(SiC・GaN)はどこへ向かっているのか。決算の数字だけを見ると停滞にも映るが、需要の担い手と技術の焦点はむしろ動いている。誰がいまSiCを買い、各社がどこで差をつけようとしているのか——2026年前半に各社が公式に発表した動きから整理する。

需要を握るのは誰か ― 中国OEMとの深耕

いまSiCの採用を牽引しているのは中国の自動車メーカーだ。オンセミはNIOと戦略的協業を拡大し、900V EVプラットフォーム向けにEliteSiC技術を供給している。NIOは車両プラットフォームを400Vから900Vへ移行しており、オンセミのSiCがこの移行を支える形だ。両社の関係は単発の受注ではなく、システムレベルまで踏み込んだ多年間のパートナーシップで、2026年の北京モーターショーではNIOの900V対応車を含む複数モデルがオンセミ技術搭載として展示された。供給されるEliteSiC enhanced M3e技術は、ボディダイオード特性の改善によってターンオン損失(Eon)を低減する。

中国OEMの広がりはNIOにとどまらない。オンセミは2026年4月28日、Geely Auto Groupとの戦略的協業を拡大した。オンセミのEliteSiC技術は、GeelyのSEA-SアーキテクチャをベースにしたSEP(Super Electric Power)システムに統合される。SEA-Sは持続可能な車両アーキテクチャのスーパーハイブリッド派生で、900V対応により急速充電と航続距離の延伸を狙う。SiC採用の最前線が、中国のEVプラットフォームで動いていることがわかる。

SiCの次はGaN ― Innoscienceとの協業

各社の視線はSiCの先、GaNにも向かう。オンセミは2025年12月2日、InnoscienceとGaNパワーデバイスに関する協業MOU(非拘束的)に署名した。協業にはウェーハ調達が含まれ、Innoscienceが持つ200mm GaN-on-Siliconウェーハの大量製造実績と、オンセミのパッケージング・ドライバ・システム統合の技術を組み合わせる。狙いは低・中電圧GaNポートフォリオの拡張とグローバルな製造スケールアップだ。市場の裾野も広く、GaNパワーデバイスの2030年のTAM(獲得可能な市場規模)は29億ドル規模と試算されている。SiCで築いた顧客基盤の上に、GaNをどう乗せるかが次の競争軸になる。

技術の焦点① ― 損失をどう削るか

需要が回復局面に入ると、競争軸は「作れるか」から「どれだけ効率よく動かせるか」へ移る。SiCはシリコンデバイスと比べて高速スイッチングと低損失を両立する一方、高周波ノイズとのトレードオフが課題になる。ここに手を打ったのが東芝だ。東芝は、SiCデバイス向けに世界初の自動駆動波形生成機能を持つ「フィードバック型アクティブゲートドライバ技術」を開発した。あわせて、少数のキャパシタで多レベルのゲート電圧を生成する「バイナリ加重スイッチドキャパシタ型低損失ゲートドライバ技術」も世界初として開発している。これらの技術は、EV向けインバータとデータセンターUPSの両用途を対象とし、2026年のIEEE ISSCC(国際固体素子回路会議)で発表された。デバイス単体だけでなく、それを駆動するゲートドライバの世代交代が効率競争の焦点になりつつある。

技術の焦点② ― 放熱パッケージ

高密度化が進むほど、性能と同じくらい「熱をどう逃がすか」が効いてくる。ROHMは、SiC MOSFET向けのトップサイド冷却パッケージ「TSC3PAK」を2026年6月に量産開始した。デバイスの上面側から放熱する構造で、外形寸法は14.00×18.58×3.50mm。6.66mmの沿面距離を確保し、ACピーク1200Vに対応する。ラインアップは750V品6機種と1200V品6機種で構成され、想定用途は車載のOBC(車載充電器)・電動コンプレッサから、PVインバータ・サーバー電源まで広い。パッケージング技術が、SiCの実力を引き出す律速になりつつある。

需要の広がり ― EVからデータセンターへ

SiCの行き先はEVだけではない。それを最も具体的に示すのが、東芝が2026年5月20日にサンプル出荷を開始した1200VトレンチゲートSiC MOSFET「TW007D120E」だ。主用途に次世代AIデータセンターの電源システムを掲げ、オン抵抗7.0mΩ(typ)・ドレイン電流172Aで、第3世代比でRDS(on)Aを約58%低減、性能指数(FOM)を約52%改善したとされる。パッケージはトップサイド冷却に対応するQDPAKだ。東芝のゲートドライバ技術がデータセンターUPSを対象に含み、ROHMのTSC3PAKがサーバー電源を想定用途に挙げることとあわせて、電源系の高効率・高電力密度化を背景に、データセンターが新しい需要の柱として立ち上がっている。EVの減速が語られる一方で、用途の裾野はむしろ広がっている。

ワイドバンドギャップ2026の論点
01

需要は中国OEM主導

オンセミはNIOの400V→900V移行にEliteSiCを供給し、GeelyのSEPシステムにも統合。SiC採用の最前線が中国EVで動く。

02

次の軸はGaN

オンセミはInnoscienceとGaN協業MOUに署名。Innoscienceの200mm GaN-on-Si量産と組み、2030年TAM29億ドルの市場を狙う。

03

損失低減の競争

東芝が世界初のフィードバック型アクティブゲートドライバ等を開発。SiCの高速・低損失と高周波ノイズのトレードオフに対処。ISSCC 2026で発表。

04

放熱と用途の広がり

ROHMがトップサイド冷却のTSC3PAKを量産開始(6.66mm沿面/1200V対応)。用途はOBC・サーバー電源まで。EVからDCへ需要が拡大。

事業への影響と確認ポイント

減損局面の数字だけでSiCを「終わった市場」と見ると、需要の担い手と技術の焦点が移っていることを見落とす。調達・設計の観点で確認したいのは、採用先のOEMがどの地域でどの電圧プラットフォーム(400V/900V)へ動いているか、SiCに続くGaNの布石が供給元にあるか、ゲートドライバや放熱パッケージといった周辺技術の世代が自社の要件に合うか、そしてEV以外にデータセンターなど需要の行き先が広がっているか——である。市場は縮んだのではなく、担い手と用途を替えながら次の局面へ動いている。

参照ファクトカード