後工程が「国家戦略」になった

半導体の国産化というと、これまで前工程(ウエハ製造)の話が中心だった。その焦点が、先端パッケージング(後工程)へと広がっている。AIチップの性能と供給が後工程に左右されるようになった今、米国も欧州も、パッケージング能力を国内に確保することを政策の柱に据え始めた。

調達側にとって、これは供給網の地図が政策で書き換わることを意味する。どの国が後工程能力をどこに築くかは、数年後の供給継続性と地政学リスクに直結する。米国と欧州の政策競争を、一次情報で見ておきたい。

米国——CHIPS/NAPMPの14億ドル

米商務省は2025年1月、CHIPS NAPMPを通じて先端パッケージング向けに総額14億ドルの最終助成を確定した。単発の補助ではなく、後工程の国内エコシステムを束ねる国家プログラムである。内訳を見ると、Natcastが先端パッケージングのパイロット施設(PPF)運営費として11億ドルを取得し、Absolics・Applied Materials・アリゾナ州立大学が先端基板研究で計3億ドルを受領する。

材料・基板の裾野も対象だ。Absolicsはジョージア州コビントンにガラスコア・パッケージングのエコシステムを構築し、1億ドルの直接助成を受ける。研究から量産、材料までを一体で押し上げる設計になっている。

Amkor——アリゾナに約20億ドル

政策と企業投資が噛み合う代表例がAmkorだ。AmkorはCHIPS法に基づき、最大4億ドルの直接補助金と2億ドルの融資枠を獲得した。これを裏付けに、アリゾナ州ピオリアのOSAT施設へ約20億ドルを投資し、約2,000人を雇用する計画だ。

拠点は単独では立たない。AmkorはTSMCと連携し、HPC・車載・通信向けの先端パッケージの大量生産体制を構築する。前工程(TSMC)と後工程(Amkor)を米国内で近接させる狙いだ。米商務省は、CHIPSプログラム成功の鍵として先端パッケージング能力の国内整備を最重要課題と位置づけており、後工程の国産化を政策の中核に据えている。

EU——欧州チップス法とChips Act 2.0

欧州も後工程を明示的に取り込む。EU欧州チップス法は2023年9月21日に発効し、先端チップの設計・製造・パッケージング能力の強化を明示した。前工程だけでなくパッケージング・テスト・組立まで含めて、域内の供給網を厚くする方針だ。目標も明確で、EUの半導体世界市場シェアを2030年までに20%へ引き上げることを掲げる。

歩みは止まらない。欧州委員会は2026年6月にChips Act 2.0を提案し、戦略的依存度の低減へさらに踏み込んだ。米国のNAPMPと同様、欧州も「後工程を含めた自給力」を政策で押し上げようとしている。

政策競争の読み方

先端パッケージングの地政学:米 と EU
01

米国:CHIPS/NAPMP

先端パッケージング向けに14億ドル確定(NatcastのPPF 11億ドル、基板研究3億ドル等)。後工程の国内エコシステムを国家プログラムで束ねる。

02

米国:Amkor×TSMC

Amkorは補助金最大4億ドル+融資2億ドルを得てアリゾナに約20億ドル・2,000人。TSMCと連携し前工程と後工程を国内近接。

03

EU:欧州チップス法

2023年9月発効、設計〜パッケージングを明示。2030年に世界シェア20%を目標。2026年6月にChips Act 2.0を提案し依存度低減へ。

04

調達への含み

後工程能力の立地が政策で書き換わる。供給網の地理的分散と地政学リスクの評価に、各国プログラムの進捗が材料になる。

事業への影響と確認ポイント

調達・投資の観点で押さえるべきは、①自社の後工程調達が特定地域に集中していないか、米欧の国産化で代替・分散の選択肢が増えるか②Amkor×TSMCのように前工程と後工程が近接する拠点が、リードタイムと供給継続性をどう変えるか③政策(NAPMP/欧州チップス法)が掲げる能力が、実際の量産としていつ実効化するか——である。後工程の地政学は単なる政策ニュースではなく、供給網の地図が数年かけて書き換わる長期の変化として追う価値がある。

参照ファクトカード