2025〜2026年、自動車各社の減損計上やEV目標の下方修正を捉えて「EVの冬」「需要崩壊」という論調が広がった。だがマクロデータが示すのは終焉ではない。過剰なハイプが剥落し、巡航速度の実需フェーズへ移行した姿である。そして市場は一様に失速したのではなく、地域ごとに二極化している。

IEAの『Global EV Outlook 2025』によれば、2024年の世界の電気自動車販売は1,700万台を超え、前年比で25%以上増加した。新車販売に占めるシェアは20%を超えている。「崩壊」と呼ぶには整合しない数字だ。重要なのは、この成長が地域ごとに大きく異なる速度で起きている点にある。

中国・新興国が牽引し、欧州が踊り場に

地域別に見ると、市場は三つの異なる動きに分かれる。

2024年・電気自動車販売の地域別コントラスト
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中国:新車の約半数

電気自動車販売は1,100万台を超え、これは2年前の世界全体の販売台数を上回る規模。新車販売のほぼ半数が電気自動車となり、走行中の車の10台に1台が電動という段階に入った。価格競争と国内サプライチェーンの厚みが普及を支える。

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新興国:記録的な約40%増

中国・欧州・米国の主要3市場の外側で、販売が約40%増の130万台へと急拡大した。米国の1,600万台規模(総新車)とは桁が違うものの、伸び率では最も高い。低価格の中国製モデルが普及の起点になりつつある。

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欧州:補助金縮小で横ばい

複数の主要国で補助金が段階的に縮小・撤廃され、2024年の販売は横ばいに転じた。ただしシェアは約20%を維持しており、国ごとの増減が相殺し合っている。需要崩壊というより、政策反動による調整局面である。

米国では販売は増加を続けたものの、その伸び率は前年の4分の1程度に鈍化した。つまり「失速」の語が当てはまるのは、主に補助金政策が変わった西側の一部市場であり、世界全体ではない。

「失速」言説と会計上の減損を切り分ける

OEMの減損計上は、しばしば「EV不要論」の根拠として引用される。しかし減損は将来キャッシュフローの見直しに伴う会計上の評価であり、足元の販売台数の増減とは別の論理で動く。投資タイミングが需要の立ち上がりに対して早すぎた場合、販売が伸びていても減損は生じうる。

補助金カットの直前に駆け込み需要が発生し、その反動で翌期の販売が落ち込む——という循環的な動きも、「構造的な需要減」と混同されやすい。両者を切り分けるには、在庫日数や値引きの常態化といった指標を販売台数と突き合わせる必要がある。

二極化を捉える観測指標

市場が二極化しているという見立ては、反証可能な形で検証できる。次の指標を地域別に追うことで、「実需フェーズへの移行」なのか「構造的な需要減」なのかを判別できる。

二極化を検証する指標
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仮説を支持する動き

世界のBEV+PHEV販売が前年比プラスを継続/新車に占める電動車比率が趨勢的に上昇/中国・新興国のシェア上昇。これらが続く限り、市場全体としては実需フェーズへの移行と解釈できる。

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仮説を崩す動き

西側主要市場でBEVシェアが複数四半期にわたり前年割れし、絶対数も減少/在庫日数の増加と値引きの常態化が同時進行。これらが揃えば、循環ではなく構造的な需要減のサインとして警戒すべきである。

調達・事業企画の観点では、「EVは伸びるか否か」という二択ではなく、「どの地域で、どの価格帯が伸びるか」を前提に据えるほうが実務に効く。中国・新興国向けと西側規制市場向けでは、求められる車格・価格・サプライチェーン構成が異なる。市場を一括りにした需要予測は、二極化のもとでは精度を欠く。

中国市場の価格競争と輸出の動きは中国NEV:価格競争の沈静と輸出急増で、普及の経済性を左右する電池コストは電池$108/kWh:BEVコスト分岐点で詳しく扱う。

参照ファクトカード

> 出典:IEA, Global EV Outlook 2025(trends in electric car markets / executive summary)。地域別の販売・シェアは同レポートの2024年実績値に基づく。