減速の谷で、資本は積まれる
SiC業界は2025年からのEV減速で減損・投資延期が続いた。しかし2026年7月の1週間を切り取ると、資本の流れは止まるどころか、欧州と中国で同時に積み増されている。欧州委員会は7月14日、ドイツの半導体4施設に対する国家補助€6.59億(約1,100億円)を承認し、うち最大の€3.53億はSiCエピウェハのElement 3-5に入る。中国では車載SiCの垂直統合体、芯聚能・芯粤能のD輪7億元超の調達が報じられた。需要の谷で仕込まれた産能は、次の局面の価格と供給の前提を決める。
欧州——チップス法の「初物」要件でSiC川上に公費
承認された4件の内訳は、パワー半導体の川上に寄っている。Element 3-5(ノルトライン=ヴェストファーレン州ベースヴァイラー)はSiCエピウェハ製造工場に€3.53億。Vishayはシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州のパワーMOSFET製造工場に€2.14億。残るはKLA-Tencor MIEの光学計測装置工場(€7,440万・ヘッセン州)とKETEKの検出器製造拠点(ミュンヘン)だ。4件すべてがEUチップス法の「first-of-a-kind(初の同種施設)」要件に該当し、連邦・州の共同資金で拠出される。
注目はElement 3-5だ。SiCの原価構造では基板とエピが川上のボトルネックであり、欧州域内に独立系のエピ供給源が立つことは、Infineon・Bosch・STなど欧州デバイス勢の調達選択肢を直接広げる。EV需要の谷にもかかわらず、EUは「供給網の自律性」を理由に川上へ公費を入れ続けている。
中国——垂直統合の民間資本、車載で実績づくり
中国側の動きは民間資本だ。業界メディアの報道によれば、広東の芯聚能半導体と芯粤能半導体は共同でD輪増資を完了し、調達総額は7億元(約140億円)超に達した。裏付けとなる体制は公式発表で確認できる。両社は広州南沙にワイドバンドギャップ半導体の設計・製造・封止測試の拠点を構築しており、国内では数少ない「車載主駆動SiCを全工程国内で通せる」体制になる。
実績も公式発表で確認できる。芯粤能製SiCチップを載せた主駆動モジュールは大規模交付段階に入り、車載SiCチップはAQG324試験を通過、チップから整車までの車規級検証を完了した。車載比重の高い中国勢は、SiC市場の成長の主戦場に最短距離で立つ。
EU:川上へ公費
€6.59億承認のうちSiCエピのElement 3-5へ€3.53億。欧州域内の独立系エピ供給源が立ち、デバイス勢の調達選択肢が広がる。
独:パワーMOSFETも
Vishayの新工場へ€2.14億。SiCだけでなくシリコンパワー半導体の域内産能にも公費が入る。
中国:垂直統合に民間資本
芯聚能・芯粤能がD輪7億元超(報道)。南沙の設計→製造→封測拠点と車載量産交付は公式発表で確認。
谷で仕込む論理
需要減速期の産能投資は、回復局面の価格決定力に変わる。欧中とも「今」入れている。
事業への影響と確認ポイント
調達・投資の観点で確認すべきは、①欧州エピ供給源(Element 3-5)の立ち上がり時期と、既存エピ大手(Coherent・SICC等)との価格・品質差②中国垂直統合勢の車載実績が国外OEMの認定にどこまで届くか——AEC-Q101等の認証は通過済みで、次の壁は実車採用の広がり③補助・優遇で積まれた産能が、需要回復時に価格下押し圧力として跳ね返る規模——である。EV減速の見出しの裏で、SiCの供給網は欧中の資本で作り替えられている。回復局面で調達価格を左右するのは、この谷の間に誰がどこへ投資したかだ。
主要メーカーの増設・減損・供給契約・ウェハ大口径化の動きは、パワー半導体 供給・能力トラッカーで定点整理しています(CSV/JSONダウンロード可)。
