東芝デバイス&ストレージは2026年5月20日、次世代AIデータセンター向け電源システムを主要用途とする1200Vトレンチゲート型SiC MOSFET「TW007D120E」のテストサンプル出荷を開始した。量産は2026年度中に向けて準備が進められており、再生可能エネルギー関連機器への展開も想定されている。

Rds(on)×Qgd 約52%改善の技術的意義

TW007D120Eの核となる性能改善はフィギュアオブメリット(FOM)であるRds(on)×Qgdを現行品比約52%改善した点だ。このFOMはオン抵抗(導通損失の指標)とゲートドレイン電荷(スイッチング損失の指標)の積で表され、一方を下げようとするともう一方が増えるという従来のトレードオフを表している。東芝はトレンチゲート構造の改良によってこの制約を同時に緩和しており、導通損失とスイッチング損失の双方を従来品と比べて低減できる。

1200V定格とAIデータセンター電源構成

AIデータセンター向け電源では±400V HVDCバスからサーバーラックへの変換段(PFC・LLC・位相シフトフルブリッジ等)で高耐圧スイッチング素子が求められる。ROHMのSCT4013DLL(750V)が±400V HVDC直結のBBU向けに展開するのに対し、東芝TW007D120Eの1200V定格はより高い絶縁設計裕度と電圧変換段の効率改善を目的とした用途を想定している。電圧帯ごとにSiCラインアップを整備するメーカー各社の動きが加速しており、設計者が電圧帯と損失特性の両軸で素子選定を行う局面が広がっている。

設計担当者へのポイント

テストサンプル段階であるため、量産品との特性差や製造歩留まり情報の確認が調達判断の前提となる。52%のFOM改善は定格動作点での公称値であり、実際の改善効果はゲートドライブ回路の設計・スイッチング周波数・デッドタイム設定・温度条件に依存する。早期の評価ボードによるダブルパルステストで実機条件での特性を確認することを推奨する。東芝は大電流実装を前提としたQDPAKパッケージでの提供も視野に入れており、パッケージ選定を含めた基板設計の方向性を早期に決める必要がある。