欧州理事会は2026年6月12日、炭素国境調整メカニズム(CBAM)を特定の川下製品に拡大し、既存の迂回防止措置を強化する案で合意に達した。欧州委員会が2025年12月に提出した強化提案を受けたもので、委員会は理事会の迅速な進展を歓迎している。製造業のサプライチェーンにとっては、CBAMの適用境界が中間財の先まで広がる方向が明確になった。
何が変わるのか——適用範囲の川下拡大
これまでのCBAMは鉄鋼・アルミニウム・セメント・肥料・電力・水素など炭素集約度の高い基礎素材を主対象としてきた。今回の合意は、その先の「特定の川下製品(downstream products)」へ適用範囲を拡大する方向を含む。鉄鋼やアルミの中間財を加工して欧州へ輸入する事業者が、新たにCBAMの申告・コスト負担の対象となる可能性がある。素材そのものを輸出していなくても、それを組み込んだ製品が対象となれば、影響範囲は大きく広がる。
迂回防止と電力ルールの見直し
欧州委員会の2025年12月提案は、①川下製品への適用拡大、②迂回防止措置(anti-circumvention safeguards)の強化、③電力に関するルール変更、④技術的調整、の4点で構成される。迂回防止の強化は、CBAM対象品を第三国経由で軽加工して回避する行為を困難にするもので、炭素コストの高い素材を用いるグローバルサプライチェーン全体に調達先見直しを迫り得る。電力に関するルール変更は、国境を越えて電力を調達する電力集約型の製造拠点のコスト試算に直接影響する。
- 2025年12月欧州委員会がCBAM強化提案を提出
川下製品拡大・迂回防止強化・電力ルール変更・技術的調整の4点で構成。
- 2026年6月12日EU理事会が合意
特定の川下製品への適用拡大と迂回防止強化で理事会合意に到達。
- 2026年9月(見込み)欧州議会 本会議採択
採択後に三者協議(トリアローグ)が本格化する。
- 2026年末〜2027年最終法制化(見通し)
立法スケジュールと準備の猶予
今回の理事会合意は立法プロセスの通過点であり、確定ではない。欧州議会が提案を審査・本会議で正式採択した後、議会・理事会・委員会による三者協議(トリアローグ)が本格化する。欧州議会の本会議採択は2026年9月が見込まれており、最終的な法制化は早くとも2026年末から2027年になる見通しだ。委員会提案から約6か月での理事会合意は異例の速さで、EUがCBAM強化を気候政策の優先事項に位置づけていることを示す。
製造業・調達担当者への示唆
確定前の段階だが、適用範囲が川下へ広がる方向性は明確であり、自社製品・部材が将来の対象に含まれ得るかの棚卸しを早期に始める価値がある。CBAMは既存の申告実務に加え、川下拡大時には対象判定そのものが論点になる。製品設計・調達のリードタイムを踏まえれば、2026〜2027年に適用される規制は実質的にすでに準備期間に入っている。立法の最終形を待たず、サプライヤーの炭素強度データの収集体制を整えておくことが、コスト影響の試算と価格転嫁の判断を前倒しで可能にする。
