世界EV市場は「一様な普及」ではなく二極化している
電動車(EV)の普及を一つの平均値で語ると、市場の実態を見誤る。世界販売は2025年に2,000万台を超え、新車に占める比率は25%超が見込まれる。しかしその内訳は地域ごとに大きく食い違う。中国は新車の半数がすでに電動車に置き換わった一方、欧州(EU)はようやくBEVが2割に届く段階で、しかも内燃車やハイブリッドがなお厚い。さらに両者は通商政策でも対立している。本記事では、中国とEUの分岐を一次情報で整理する。
中国 ― NEVが新車の半数を超え、輸出が市場を塗り替える
中国では電動化が「普及」の段階を越えつつある。2025年10月、新エネルギー車(NEV)の販売が新車全体の51.6%を初めて突破した。1〜10月のNEV生産は前年同期比33.1%増の約1,302万台に達し、量の面でも世界を圧倒する。
さらに目立つのが輸出だ。同期間のNEV輸出は前年比90.4%増の201万台。中国はもともと世界のEV生産の7割超を担っており、国内市場の規模に輸出の伸びが重なることで、価格と供給能力の両面で主導権を握りつつある。これは部材・電池サプライヤーにとって、調達先・競合の双方が中国に集中していくことを意味する。
EU ― BEVは2割目前、しかしHEVがなお最多で「橋渡し」局面
欧州の電動化も進むが、中国とは位相が違う。EUのBEV市場シェアは2026年4月累計で19.7%へ拡大し、前年同期の15.3%から急伸した。ガソリン・ディーゼル車の合算シェアは30.2%まで低下しており、内燃車の縮小は明確だ。BEV登録の伸びはイタリア+73.1%・フランス+48.2%・ドイツ+41.3%と、主要国がそろって加速している。
ただし「BEV一色」ではない。EUで最も選ばれているパワートレインはハイブリッド(HEV)で38.6%を占める。つまり欧州市場は、内燃車からBEVへ一気に移るのではなく、HEVを橋渡しに据えた多段階の移行局面にある。中国の「半数がNEV」とは、移行の速度も構成も異なる。
政策の分岐 ― EUは対中関税で国内産業を守る
二極化は市場の数字だけでなく、通商政策にも表れている。EUは中国産BEVに対し、最大35.3%の相殺関税を2024年10月30日から5年間適用している。税率は企業ごとに差があり、BYDは17.0%、Geelyは18.8%、SAICおよび非協力企業は最高の35.3%だ。EUは中国BEVバリューチェーンへの政府補助金を、域内産業への経済的損害の脅威と認定したうえでの措置としている。
中国が量とコストで攻め、EUが関税で国内産業を守る——この構図は、単なる販売台数の差ではなく、産業政策をめぐる対立として固定化しつつある。
中国:規模とコスト主導
NEVが新車の51.6%、生産+33.1%、輸出+90.4%。世界EV生産の7割超を握り、価格・供給能力で主導。
EU:移行は多段階
BEVは19.7%へ伸びる一方、HEVが38.6%で最多。内燃車は縮小するが、橋渡し需要がなお厚い。
政策:関税で対立
EUは中国産BEVに最大35.3%の関税(BYD17.0%/Geely18.8%/SAIC35.3%)。産業政策をめぐる対立に。
事業への影響
調達先・競合とも中国集中が進む。欧州向けは関税・現地生産要件を織り込んだ供給設計が要る。
この二極化が示すもの
中国とEUの分岐は、EVを「一つの世界市場」として扱う前提が崩れていることを示す。同じ電動化でも、市場の速度(中国は半数超、EUは2割)、構成(BEV対HEV)、そして政策(自由競争対関税)が地域ごとに食い違う。サプライヤーや製造業にとっては、地域別に異なる戦略——コスト競争力で中国勢と向き合う場面と、関税や現地生産要件を前提に欧州市場へ供給する場面——を同時に設計する必要がある。世界平均の普及率だけを見て計画を立てると、この分岐を取りこぼす。
