GaN覇権の勝負は、法廷でも進む
GaN(窒化ガリウム)パワー半導体の主導権争いは、製品性能や量産能力だけでなく特許の法廷でも決着がつきはじめた。2026年、Infineonは米国の国際貿易委員会(ITC)でInnoscienceのGaN製品を市場から排除し、WolfspeedはNavitasを特許侵害で提訴した。特許戦は抽象的な知財の話ではなく、「どの調達先が市場から消えるか」という供給リスクそのものだ。GaNの採用を検討する側にとって、訴訟の行方はサプライヤー選定の前提を左右する。
Infineon対Innoscience——米市場からの排除
Infineonは、GaN特許侵害訴訟でInnoscienceに対し再び勝訴した。ドイツではミュンヘン地裁がInnoscienceに対しGaN製品の輸入・販売・マーケティングの禁止命令を出している。両社のGaN特許紛争は今回で複数件目で、InfineonはInnoscienceを「GaN特許を無断使用した中国企業」として位置づけて争ってきた。
決定的だったのは米国だ。米ITCがInnoscienceのGaN製品に対する輸入・販売禁止命令を2026年7月に最終確定させた。ITCの最終決定は2026年5月7日付で、大統領審査期間の完了により効力が発生した。これによりInfineonのGaN特許が、Innoscienceの中国製パワー半導体を米国市場から排除する。欧州系IPがアジア製品を市場から締め出した初の大型事例であり、特許が地域市場へのアクセスを断つ「関税以上の障壁」になりうることを示した。
Wolfspeed対Navitas——GaN勢の間でも
特許戦はGaN勢の間でも起きている。Wolfspeedは、Navitas Semiconductorをデラウェア州の連邦地裁に特許侵害で提訴した。ただしNavitas側は争う構えで、発行済み・出願中を含めて300件超の特許を保有する。同社の技術は、GeneSiC(トレンチアシストプレーナー技術を採用した高耐圧SiCデバイス)や、GaNFast IC(GaNのパワー・ドライブ・制御・センシング・保護を1チップに統合)に及ぶ。訴訟の当否はこれからだが、GaN/SiCの主導権争いが法廷にも広がり、特許リスクが企業価値と供給の両面に効くことを示す。
調達リスクとしての特許戦
これらに共通するのは、特許が「サプライヤーの市場アクセス」を左右する武器になっている点だ。ITCの排除命令は、性能や価格に関係なく、対象製品を特定市場から消す。訴訟中の企業は、たとえ製品が優れていても、供給継続性に不確実性を抱える。GaN採用を検討する調達側にとって、これは候補サプライヤーの「訴訟状況」を選定基準に組み込む必要があることを意味する。
Infineon×Innoscience(決着寄り)
米ITCが輸入・販売禁止を最終確定(2026年7月効力)。ミュンヘン地裁でも禁止命令。中国製GaNを米市場から排除する初の大型事例。
Wolfspeed×Navitas(進行中)
Wolfspeedがデラウェア連邦地裁でNavitasを提訴。Navitasは特許300件超を保有し争う構え(GeneSiC・GaNFast)。GaN/SiCの主導権争いが法廷へ。
特許=市場アクセスの武器
ITC排除命令は性能・価格に関係なく製品を市場から消す。関税以上の実効的な参入障壁になりうる。
調達への含み
候補サプライヤーの訴訟状況が供給継続性を左右。GaN採用時は「訴訟リスク」を選定基準に組み込む必要。
事業への影響と確認ポイント
GaNを採用・調達するうえで確認したいのは、①候補サプライヤーが特許訴訟の当事者か(原告/被告いずれか)②対象製品が自社の調達品目・仕向け地(特に米国)に重なるか③ITCの排除命令など「市場アクセスを断つ」判断が出ていないか——である。GaNは技術として有望でも、特許戦の勝敗が供給網の地図を書き換える。性能比較と同じ熱量で、サプライヤーの知財ポジションを確認しておく価値がある。